コロナ下でもうどう犬の使用者さんは、どんなことにこまっているの?

2020年から日本でも新型コロナウイルス感染症(かんせんしょう)が広がり、出かけるときにはマスクをしたり、手をあらったり、人と人との間をあける「ソーシャルディスタンス」に気をつけたりと、多くの人たちの生活が大きく変わりました。目の見えない人たちのくらしにも、いろいろなえいきょうが起きています。何が変わったのか、こまっていることなど、もうどう犬(アイメイト)の使用者さん7人に集まって話してもらいました。

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街のなかで変わったところ

コロナ下でどんな生活の変化がありましたか?

小山:会社ではなく家で仕事をする日が増えたり、運動不足でコロナ太りになったり(笑)、そのあたりは、ほかの人たちと変わらないかなと思います。

安藤:以前は職場のお昼休みに何人かでいっしょにお弁当を食べていたのが、それぞれ静かに食べるようになるなど、やっぱりコミュニケーションの機会は少なくなりましたよね。

中川:2020年春に初めて緊急事態宣言(きんきゅうじたいせんげん)が出たときは、大通りにほとんど車が走っていませんでした。いつもなら車の音を手がかりにして横断歩道の信号が赤なのか青なのかを判断するのですが、静かなので信号が分からなくて車が来るまでずっと待っていました。商店街のお店もみんなしまっていて、前はたくさん人をよけながら歩いていた通りを、とても早く通りぬけることができたのを覚えています。そのときに比べると、いまは街にも人がもどってきました。

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小山:そういえば、コロナ下になってから自転車が増えた気がするのだけど?

八方:増えた増えた。近所の商店街は歩道がせまいのだけど、そこに自転車を停めたまま買い物に行く人が多くなりました。そうすると道がさらにせまくなってアイメイトとならんでは歩けないから、一度車道におりなくちゃいけない。それに、信号を守らないで横断歩道をわたってくる自転車もいるので、目が見えないと自転車の急な動きが分からないからこわい思いをすることがあります。

福原:マナーは守ってほしいですよね。

中川:一時期、大きな街から人が減ったのとは反対に、家の近所など生活エリアには人が増えた気がします。ソーシャルディスタンスをとるようになって、視覚障害者が周りの人に声をかけづらくなったという話を聞いたこともありますが、わたしの場合はそれでこまったことはあまりないです。道に迷ったら、とりあえず「すみませーん」と大きな声を出すと、だれかが助けてくれます。

八方:そうですよね。わたしも近所では誰かが助けてくれることが多いです。ただ、緊急事態宣言(きんきゅうじたいせんげん)のあと、大きな建物のしせつに行く用事があったのだけど、人が全然いなかったときがありました。空いているから歩きやすいのだけれど、道に迷っても周りに聞ける人がいない。みんなの足音が聞こえると「こっちに行けばいいのかな」と方向も想像できるけど、だれもいないから分からなくて、そのときはこまっちゃいました。

福原:空気の入れかえのために、商店街でもお店のドアを開けっ放しにしているところが増えましたが、わたしにとっては良かった点もあります。音やにおいを手がかりにどんなお店かを判断しているので、いつもドアがしまっている静かな場所は何のお店なのか分からないんですよね。でも、いまはドアが開いているので、「食器の音が聞こえるから、ここは食べ物屋さんなのかな?」と分かりやすくなりました。

小山:いまは電車のなかも、まどがあいていますよね。自然の風が入ってくるのはいいのだけれど、外からの音がうるさくて駅を知らせるアナウンスが聞きとりづらいことがよくあります。

梅田:それはありますね。

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お店などでこまったこと

お店の入口で検温や消毒を求められることが多くなりました。それでこまったことはないですか?

八方:お店に入るときには「すみません、入りたいんですけど」と声をかけています。そのときに「検温と消毒をお願いします」と言われたら「どこにありますか?」と聞くようにしていますね。

小山:たまに消毒液が置いてある場所に気づかなくて通り過ぎちゃうこともあるけれど、自分でも持ち歩いているので、それを使っています。視覚障害者のなかには、自分で消毒スプレーを持ち歩いている人は多いと思いますよ。

福原:どうしても「手でさわる」という場面がわたしたちは多い。たとえば駅で、何番ホームなのかを知るために、手すりの点字をさわって読むことがあります。それから、レジでカードなどをさす場所が分からなくて、教えてもらうときにお店の人と手がふれることもあります。なので、わたしも消毒液をいつも持ち歩いていて、必要があるたびに使っています。

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八方:いまはカフェやレストランに行くと、テーブルにとうめいな板の仕切りが置いてありますよね。すわるときにその板に頭をぶつけてしまうことがあります。自分でも確かめているんだけど、お店の人に「ここに板がありますよ」と教えてもらえたら助かるなって思います。ぶつけると意外といたいんですよね(笑)。

小山:レジのところのビニールカーテンにも慣れましたけど、お店の人もマスクをしているので、金額などの声が聞こえにくいことがあります。

八方:あと不思議なんだけど、マスクをすると感覚がにぶくなると話す視覚障害者は周りに結構います。

福原:それ、分かります! なんとなく感覚が分かりにくい気がします。

髙橋:外を歩いていて、いつもだったら曲がり角があることが感覚で分かるのに、マスクをしたら気づきにくくなりました。マスクをしたことで初めて、意外と自分がはだ感覚を使って物事をとらえていることに気づきました。別にマスクで耳がかくれているわけじゃないのに、音楽のきこえ方も全然ちがいます。

小山:最近は慣れましたけど、わたしも初めはすごく変な感じがしました。

もうどう犬(アイメイト)とのこと

安藤:最初のうちは、もしかしてマスクをしているとアイメイトも指示が聞こえづらいんじゃないかなと心配していたのですが、家族に言わせると特にえいきょうはなさそうです。いまはマスクしたままふつうに指示をしています。

八方:マスクしていても、指示は伝わるよね。アイメイトへのえいきょうはあまり感じていません。

髙橋:ただ、犬には「ソーシャルディスタンス」が分からないじゃないですか。最初のころは、電車に乗るときも周りの人に近づかないようにすごく気をつかいました。電車のすみのほうに行ったら、そこにいた人にさわりそうになって、「すみません、近づいちゃいましたね」みたいな感じで謝ることはよくあります。

小山:買い物でレジの列にならぶときも、コロナ前はすぐ前の人についていたけれど、いまは間をあけるようになりました。でも、それだと列が進んだのかが分からないんですよね。

福原:立つ場所に線がひいてあって「ここにならんでください」というお店も増えましたけど、線の位置が分からないのでこまります。

八方:わたしは、銀行のATMなどにならぶときは、前の人に「すみません、進んだら教えてください」とたのんでいます。そうしたら、みんな教えてくれますよ。ただ、通路がベルトで仕切られていて、ぐるぐるまわりながら歩くようになっているところが多いんだけど、犬にはベルトの意味が分からないから、まっすぐに進もうとしちゃうんですよね。

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髙橋:コロナになって、アイメイトがいて良かったなとあらためて思う場面も多くありました。ガイドヘルパーさんと外出していた視覚障害者から、ソーシャルディスタンスのことがあるので来てもらいにくくなったという話を聞いたことがあります。その点、アイメイトがいれば、ひとりでいつでも自由に外出できます。

梅田:コロナとはちょっとちがいますが、ゲリラ豪雨(ごうう)で雨音が大きかったり、雪が積もったりした日でも、やっぱり犬がいると安心だなって思いますね。私たち視覚障害者にとっては音は大切な情報のひとつですが、雨などで周りの音が聞こえないときでも、アイメイトの目をたよりに歩くことができるので本当に助かります。

小山:アイメイトといっしょに歩いていると、周りから声もかけられやすくなりますよね。

八方:道に迷っていると、「どうされました?」と聞いてくれる人はたくさんいます。見えなくてもできることはたくさんありますが、手伝ってほしいときもある。もっといろいろ知ってもらえたらと思います。

今回は、コロナ下で「こまったこと」について教えてもらいました。列のならび方や電車の音などお話を聞いて初めて気がついたこともありました。誰もが大変なときこそ相手の立場になって想像してみることが大切ですね。みなさん、ご経験を話してくださりありがとうございました!

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