アイメイト60年史・証言③ 佐藤 憲さん(アイメイトの社会参加に尽力 )

佐藤憲さんは、大ベテランの使用者です。1頭目の『アニタ』とペアになったのは40数年前の1970年のことです。その当時は、アイメイトといえども、電車やバス、飲食店やホテルでも”犬はお断り”と言われることがほとんどでした。

そんな時代に、アイメイトといつでもどこへでも自由に出かけられるように先陣を切って社会に働きかけたのが佐藤さんです。地元の石川県でバス乗車を実現した後、上京して個別の交渉から、業界団体や国会議員を通じた働きかけを積極的に行いました。

さらに、佐藤さんに続いて多くの使用者や支援者が啓発活動の輪を広げた結果、現在では、アイメイトと一緒に公共交通機関を利用して外出したり、買い物や外食、旅行を楽しむことが当たり前になってきたのです。しかし、今も入店拒否は珍しいことではありません。先駆者の佐藤さんの言葉には、今の時代にも通じる教訓が込められています。

盲人と犬に対する差別が根強い時代に

私がアイメイトを持とうと思ったのは、「犬なんて冗談じゃねえや」と方々で言われるような時代。皆が嫌がる犬を連れて、図書館でもホテルでもどこへでも入って歩くということを、誰も考えなかったですよ。私自身も「犬なんかに命を預けられるかなあ。まあいいや、ペットとして面白いや」なんて、とりあえず塩屋賢一さんに会うだけ会ってみようというくらいの気持ちで上京したんです。

それで練馬の訓練所で塩屋さんと話をしているうちに意気投合。そのまま歩行指導を受けたわけです。昭和45年の8月。暑い夏でした。練馬大根の畑の縁をね、とっとことっとこ歩いていると、すれ違う人たちから「犬が来たあ」と怖がられたり、「めくらが犬で歩くなんて冗談じゃねえや。歩けるわけねえや」なんて声も聞こえてきました。

妻の熱意がきっかけに

4週間の歩行指導が終って、石川県の自宅にアニタと一緒に帰りました。通勤に使いたい、地域の活動や旅行にも一緒に行きたい。でも、いざ動こうとすると全然使いものにならんのです。犬と一緒では、バスは乗せない汽車は乗せない、タクシーは乗せない。これは困ったなあと。一方、家内はアニタに本当によく愛情を注いでくれました。「犬っていいなあ」と言ってね。

そのうちに、石川県にもう一人使用者が誕生しました。その人もやっぱり、バスに乗せてもらえなかった。雨の日も歩いて職場に通うほかなかったんです。

そうしたら、家内が「あの犬雨でベッタベタになって歩いとる。かわいそうに」って、本人よりも犬を哀れんでね。「この犬のためにもぜひ乗せてやって」と家内がバス会社に交渉に行きました。担当者は話を聞く前から「だめだだめだだめだ」と。「ダメでもいいからなんとかしてやってほしい。障害者を助けるつもりで。仕事に行けなければ食べていけないんです」と今度は泣き落し。そうしたら最終的にはバス会社が運転手一人ひとりと交渉して乗せてくれるようになった。家内は「やっと一ついいことができた」と喜んでいましたよ。

アニタと一緒に説明して回る

そうやって家内が一生懸命になるもんですから、私もやらざるを得ない。アニタと上京して運輸省(当時)や日本観光連盟、レストラン協会、そしてホテルなどを個別に回った。「これは私の目だから」と、アニタが私の指示に従う様子を見せながら、乗車や入店の交渉を一つひとつやっていきました。

あるホテルでは、「うちはいいホテルじゃないので、あなた方のお世話をしてあげられない。ダメだ」と言われてね。それで私は「何か事件が起きた時には、夜中でも自分で対処するからいっぺん泊めてみなさい」と言い返しました。「じゃあ泊まってみますか」ということになって、次の日には「ああ、食事も問題ないし、おしっこも大丈夫。いやあたいしたもんだ」と。それからは、そこをよく利用するようになりました。

国会議員の力も借りました。同郷の奥田敬和衆議院議員に事情を説明したら「なんとかしたいなあ」と言ってくれて、運輸大臣になった時に当時の国鉄、飛行機、バスの自由乗車や最初は装着が義務付けられていた口輪の撤廃に力を注いでくれました。やがて後援会活動も活発になって、多くの方の力が結集されていきました。長年にわたるそういう積み重ねがあって、最終的には「塩屋さんはアイメイトを作る人、佐藤は認めさせる人」と、こうなったんです。

見えないことを意識しなくていい生活を

目が不自由でも、杖も持たず、人に頼らず、自分の考えで行きたい所へ行きたい時間に行けるように、私は後輩のためを思ってやってきたつもりです。アイメイトを持つ人は、訓練してくださった犬を大事にしてほしい。犬が言うことを聞かない時には、それなりの理由があります。だから、犬を叩いたり、みっともない行動を取ったりしないようにしてほしい。そして、見えないということを意識しなくていい生活を目指してください。

自分はアイメイトを認めさせる人 佐藤 憲

 

アイメイト55周年記念誌『視界を拓くパイオニア』(2012年発行)より