アイメイト60年史・証言④ 荻原 文江さん(議会傍聴やバス乗車を実現)

荻原文江さんは、2010年5月に5頭目のアイメイト『アドリア』を引退させ、現在は群馬県前橋市の養護盲老人ホームで一人暮らしをしています。

荻原さんは、アイメイトと過ごした時期を「同じ時代を過ごした他の使用者に比べて、自分は恵まれていた」と振り返ります。それは、ご自身の努力と、理解ある友人が自然に集まる人柄があってこそ。アイメイトと共に実直に生きた経験を背景に、今の使用者や協会職員にも、率直な意見を寄せていただきました。

5年越しの交渉でバス乗車を実現

荻原さんと佐藤さんの県議会傍聴実現を伝える当時の新聞記事

最初の『サミー』をもらったのは、1973年のことです。当時は前橋の自宅から歩いて40分くらいの所に勤めていたのですが、バスには乗せてもらえず、5年くらいは歩いて通っていました。

その間、県内のもう1名の使用者とバス協会や県庁に通って「なんとか乗せてください」と掛け合っていたのですが、なかなか・・・。そんな時、喫茶店をやっていた友だちが店の客だった新聞記者を紹介してくれたんです。長年交渉をしているけれど、うまくいかないという事を話したら、記事にしてくれて、その後ようやく乗れるようになりました。

当時はまだ、吠えたりしないか、排泄は大丈夫かという不安の声が多かったです。これはバス乗車ができるようになる前の話ですが、働きぶりを見てもらってアイメイトを正しく認知してもらうために、サミーと県議会の傍聴に行ったんです。新聞やテレビもたくさん取材に来て、街を歩いていると「テレビで見ましたよ」と知らない人から声をかけられるほどでした。こうした積み重ねも周囲の理解につながったのでしょうね。

友だちや周囲の人に恵まれていた

他の使用者に話を聞いてみると、どうやら私は友だちや周りの人にずいぶん恵まれていたみたい。レストランなどに入れない時期でも、周りの助けもあって普通に入れていたし、かかりつけの先生も理解があったので病院で苦労したこともありません。1頭目の時から比較的困ってないんです。

それから、私の友だちは変に気を遣いすぎることもなく、お茶でもなんでも注がせられます。むしろ誰かが気を遣うと友だちが「できるんだからやらせろよ」と言いましたね。おかげ様で一人暮らしの今も、なんでも自分でやっています。

でも、比較的最近でもこういうこともあったんですよ。よく小学校などでアイメイトのことについて講演を頼まれるのですが、打ち合わせに来た先生が「(視覚障害者であるあなたを)どういうふうに扱ったらいいんでしょうか」と聞いてきた。「普通に扱ってください」って言いましたけど(笑)。別の学校では校舎から坂道を上がった所にある体育館に行くのにどうやって行くのかと言われたから、「歩いて行く」と答えたら、校長先生が職員に「おい、歩いて行くって言ってるぜ」と、冗談混じりですがびっくりして言っていました。ですから、学校に行く時は最初に「普通に扱ってください」と言うようにしています。

今の使用者や指導員は甘い

塩屋賢一先生は歩行指導ではとても厳しかったです。今は甘すぎます。盲導犬関係者に限った話ではありませんが、人間がダレていますよね。よく他の盲導犬協会の使用者も来る集まりに行っていましたが、座っている時はリードを踏んでいなければいけないのに離していたり、犬が寄ってきてくんくんしたりすることがありました。近年は基本的なことができてないことが目立ってきたと感じます。

私たちの頃は、バスに乗るのでも何をするのでもルールがきつかった。だから、アイメイト協会で教えられたことをちゃんと守らなきゃ乗せてもらえないという頭がありました。今はいつでも乗れるということもあるんでしょうけれど、ちょっとたるんでるんじゃないかな。指導員も、もう少し厳しくしてもいいんじゃないかなあ、と思います。

サミーの登録番号と同じ部屋で

(左)老人ホームの居室には歴代アイメイトたちの仏壇がある。(右)『アドリア』の歯を入れた手作りのお守り

5頭のアイメイトと過ごして来ましたが、みんなかわいかった。その子その子で性格は違いましたけど、さみしいと思ったり色々あっても寄り添ってくれるので、人生に悩まないで過ごせたんじゃないかなと思います。今は通院などはホームの職員さんがしてくださる。外出したい時には誰かしら友だちが来てくれる。まだ友だちはたくさんいますよ。おととい、クラス会から帰ってきたばかり。仲間もいるし、アイメイトもいたし、本当に楽しい人生です。

アイメイトは皆、もう亡くなってしまいましたけれど、機会があるごとにお墓参りをしています。アドちゃん(アドリア)の歯を入れたお守りを手作りしていつも持ち歩いているんですよ。そうそう、(老人ホームの)この部屋に入居した時、部屋番号を知ってびっくりしたんです。「えーっ、101!サミーの登録番号だ」って。天国に行った後でも、まだ寄り添ってくれているんですね。

ルールを守らなければバスにも乗せてもらえない 荻原 文江

 

アイメイト55周年記念誌『視界を拓くパイオニア』(2012年発行)より