太田晴弥さん/特定非営利活動法人 クウォーター・グッド・オフィス 理事長代行

国産盲導犬第1号チャンピイ誕生から60年。アイメイト協会はたくさんの方の想いや支援に支えられてきました。「特定非営利活動法人 クウォーター・グッド・オフィス」様もそのひとつ。20年以上の長きにわたって、アイメイト使用者をクラシック音楽のチャリティーコンサートに招待し続けてくださっています。今回は、「クウォーター・グッド・オフィス」の理事長代行でいらっしゃる太田晴弥さんに、活動内容や意義、アイメイト使用者をコンサートに招待してくださるようになったきっかけなどについてお話しいただきました。

お話を伺った太田晴弥さん

 

これまでの活動を次の世代へつなぐ

——— どのようなきっかけで、クラシック音楽のチャリティーコンサートを開催されるようになったのでしょうか。

元々は四分一勝(しぶいちまさる)理事長が経営していた赤坂の小さなバーで出会った仲間たちが、「障害をもつ方と健常者が共に生きる世の中を作っていきたい」という理事長の志に賛同、「1年に1度くらい何か良いことをしよう」と、クラシック音楽のチャリティーコンサートを始めたのがきっかけです。それが今から30年前のことです。

 

——— 太田さんご自身も設立当初から活動に参加されていらしたのですね。

僕もスタートの頃は若手だったのですが、いつの間にか皆さんが卒業されてしまって、現在は理事長代行として、活動を継続しています。しかし最近は、僕らの活動も高齢化が非常に大きな問題になっています。今回の30年記念コンサートは、四分一理事長の志やメンバーの想い、これまでの30年の活動を若い世代、次の30年に繋いでいこうと、若手演奏家の方と一緒にステージを作り上げました。

 

——— 1978年に道路交通法が改正、それに続き1980年には盲導犬を伴っての公共交通の自由乗車が実現しました。30年前というと、そこからまだ数年。そうした時代に、チャリティーとはいえ、クラシック音楽のコンサートにアイメイト(盲導犬)使用者を招くということは、かなり勇気がいる決断だったのではないでしょうか。

われわれがアイメイト協会とお付き合いを始めた頃というのは、アイメイト(盲導犬)を連れてレストランやホテルなどに出かけること自体が難しい時代だったと思います。そんな時代に、四分一理事長とアイメイト協会の初代理事長である塩屋賢一さんが知り合い、親交を深め、「音楽なら目の不自由な方にも楽しんでいただけるのではないか」とお声がけしたようです。それから20年、毎年、アイメイト使用者の方をコンサートにお招きしています。

 

四分一理事長と握手するアイメイト協会塩屋未来(音楽交流NPOQGO第30回チャリティコンサート、紀尾井ホール)

 

アイメイトを迎え入れるために

——— 盲導犬とはいえ、動物をコンサート会場に招き入れることに反対はありませんでしたか?

反対がまったくなかったとは言えませんが、会場である紀尾井ホールの皆さんがわれわれの志に共感、協力してくださったこともあって実現しました。

われわれも、ふだんからアイメイト使用者やアイメイト(盲導犬)とお付き合いしているわけではありませんから、お呼びしたのはいいけど、どうやってご案内したらいいのか、どういうケアが必要なのか、そもそも紀尾井ホールまで来ていただけるのかなど、何から何まで心配でした。当日もホールの入口近くでお待ちしながら、ハラハラドキドキしていたのを覚えています。

 

——— 音楽家の方も「犬が吠えたらどうしよう」と思われていたのではないでしょうか。

「障害をもつ方と健常者が共に生きる世の中を作っていきたい」というわれわれの想いに共感、共に活動しようという音楽家ばかりですから、この取り組みもごく自然に受けとめてくださったように思います。例えば、操作音が数分おきに聞こえるような人工呼吸器を付けているお客様もいらっしゃいますが、そのことを事前にお伝えしておくことで問題なく演奏していただけています。もしかしたら、不満に思われているお客様がいらっしゃるかもしれませんが、これまでわれわれが抗議を受けたことは一度もありませんでした。

アイメイト招待当初を振り返る太田さん

 

——— アイメイト使用者を受け入れるために、準備されていることはありますか?

演奏が始まる前に、司会者から「アイメイト(盲導犬)は、今、一生懸命仕事をしているので、声をかけたり、触ったりしないでください」とお伝えするようにしています。そういうメッセージを会場に来てくださった方に知っていただくことも、われわれの役割のひとつだと思います。

 

——— このようなコンサートがもっと増えてくれるとうれしいです。

この20年、アイメイト(盲導犬)が会場で吠えたことはありません。むしろ一番静かな聴衆といってもいいのではないでしょうか。ときどき、本当に音楽を聴いているのではないかと思えることもありますよ。実は、僕が飼っている犬と同じ名前のアイメイト(盲導犬)がいて、何度も来てくれたんです。その子にあう度に、「今年も元気でがんばってくれているな」とうれしく思いました。

 

——— 最近は、盲導犬用のトイレがあるホールも出てきましたね。

2000年代になって、盲導犬用のトイレを設置するなど視覚障害者に配慮した施設を見かけるようになりました。われわれがアイメイト使用者の方をご招待した当初は、「アイメイト(盲導犬)のトイレはどうしよう」という心配もありました。「どこかにアイメイト(盲導犬)のトイレはありませんか?」と聞かれ、困ったあげく、「四谷の方に土手がありますから」などお伝えしたこともありますね。基本的には、アイメイト使用者の皆さんの多くは、事前にアイメイト(盲導犬)のトイレは済ませていらっしゃいますから、何の心配もなくお迎えすることができます。困ったことがあったときは、お互いに知恵を出し合うことで解決策は見つかると思いますよ。

コンサート会場でのアイメイト使用者とアイメイト(音楽交流NPOQGO第30回チャリティコンサート、紀尾井ホール)

 

——— マニュアルのようなものは用意されているのでしょうか。

毎年、メンバーの中から、アイメイト使用者のサポート役を決めています。アイメイト使用者の方が何か困っていらしたら、お声がけしましょう、肩に触っていただきましょう、ここに階段がありますよと教えて差し上げましょうという程度の申し送りはしていますが、そんな必要のない方ばかりですね。担当になったメンバーは、みんな当たり前のように動いてくれています。年に1度とはいえ、すでに20回くらいは、アイメイト使用者さんをお招きしているわけですからね。

マニュアルのようにかっちりしたものは一切ありませんが、バリアフリーもこれだけ整ってきていますから、アイメイト使用者やアイメイト(盲導犬)が動きやすい雰囲気さえ作っておけば、安心して動いてもらえるだろうと思っています。

 

——— 視覚障害者が来場するからといってつきっきりにならなくてもだいじょうぶであることを証明されているようです。

お呼びしたアイメイト使用者の方には、できるだけ階段を使わずに行けて、アイメイトが動きやすいスペースのある通路側に座っていただくという程度の配慮はしています。また、何かお困りのことがあったらいつでも対応できるように、その両サイドに「クウォーター・グッド・オフィス」のメンバーも座りますが、ほとんど見ているだけです。

 

——— お客様もアイメイト(盲導犬)に対して特に意識されていないようですね。

お客様もわれわれと共に育っていらっしゃるからではないでしょうか。皆さん、20年、30年と来てくださっていますから、アイメイト(盲導犬)がいるのも当たり前だと思われているようです。すごいことだなぁ、ありがたいなぁといつも話しています。

 

自分のできることをできる範囲でできるだけ長く続けていく

——— 主催者、音楽家、お客様が共に育つコンサート。これからも続いていってほしいですね。

冒頭でもお話ししましたが、設立当初のメンバーはみんな高齢化してきています。われわれの活動、コンサートを続けるためには、今のこの自然な雰囲気のまま、若い世代の人たちに繋げていくことが大切だと考えています。「ユズリハ」という言葉がありますが、強制することなく、若い人たちが自然にメンバーに加わって、われわれの想いや活動を当たり前のように受け継いでいってくれればと願っています。このグループができたときから、僕たちがずっと言い続けてきたのは、「ボランティアは、自分にできる範囲で、できることを、できるだけ長く続ける」ということです。われわれと同じ想いを持つ若い人がひとりでもふたりでも増えていってくれればこんなにうれしいことはありません。

 

——— 日本で1、2を争うような音楽家の先生が、若い演奏家たちに混じって演奏されているのも、このコンサートの魅力のひとつなのでしょうね。

豊嶋泰嗣先生のような超一流のバイオリニストが、第2バイオリンの後ろで当たり前のように演奏されることで、若い演奏家たちは刺激を受け、良い意味で化学反応を起こし、素晴らしい音がホールに響きました。ベテランの先生方は、「今の日本の若手はすごい」とおっしゃっていましたが、先生方が一緒に演奏してくださったからこそ、より素晴らしい音になったと思います。

2018年6月に開催された「第30回チャリティコンサート」(音楽交流NPOQGO第30回チャリティコンサート、紀尾井ホール)
「第30回チャリティコンサート」のチラシ(音楽交流NPOQGO第30回チャリティコンサート、紀尾井ホール)

 

——— その素晴らしい演奏、音を、これまた素晴らしい紀尾井ホールという空間で聴ける。本当に幸せなことだと思います。

第20回、25回以外は、ずっと紀尾井ホールでチャリティーコンサートをやらせていただいてきました。コンサートを続けてこられたのも、アイメイト使用者をお呼びできているのも、紀尾井ホールのご理解とご協力の賜です。アイメイト(盲導犬)が来ることを関係者の皆さんはとても楽しみにされていて、最近は「今回は、ワンちゃん何頭くるんですか?」と聞いてくださるほどですよ。

 

——— ありがとうございました。「クウォーター・グッド・オフィス」の素晴らしい活動が、これからも長く続いていくことを願っています。

2018年12月2日公開