和田智美さん/リタイア犬・不適格犬奉仕

学校の授業で使用する自作の絵本を手にする和田智美さん

 

東京都青梅市に住む和田智美さん。2000年から、ボランティアとしてアイメイトを引退したリタイア犬を家族として迎えいれています。現在は、和田家には8頭目、9頭目のリタイア犬、そして1頭の不適格犬が、家族と共に暮らしています。お子さんたちの手が離れた今、和田さんは、アイメイトと共にさまざまな地域活動もされています。リタイア犬を飼うようになって、「私の人生はより豊かなものになりました」と和田さんは言います。

「私には老犬の方が向いている」

——— リタイア犬奉仕を始めたきっかけを教えてください。

子どものころから動物が大好きで、いつも犬や猫がいるような家庭で育ちました。でも、結婚してしばらくはアパートに住んでいましたから、犬も猫も飼えず寂しい思いをしていました。その後、ようやく一軒家に引っ越すことになり、「やっと犬が飼えるんだ」とうれしくてたまらなかったことは今でもはっきり覚えています。そんなとき、偶然、手にした雑誌にアイメイト協会の「ボランティア募集」という記事を見つけました。もちろんすぐに協会に電話しました。

 

——— なぜリタイア犬を引き取ろうと思ったのでしょう?

リタイア犬なら、最期のときまでゆっくりと一緒に過ごせると思ったからです。何となくですが、私の性格には老犬の方が向いているような気がしました。初代理事長の奥様にも「和田さんにはリタイア犬が向いている」と言われたことがあります。「老犬では長く一緒にいられないでしょう?」と首をかしげる人もいますが、わが家に来た子は14、5歳くらいまで生きていますから、少なくとも4、5年は一緒に生活を共にすることができるんです。

 

犬にとっての幸せは、ご主人と一緒にいること。そして褒められること

——— ときどき、盲導犬について心ないことを口にする人もいます。

一部のメディアの影響なのか、「ほえたいのに我慢している」とか、「ご主人の行きたい方向にしか行けない」とか、「厳しい訓練を受けさせられている」などといわれることもあります。でも、犬はご主人と一緒にいられること、褒めてもらえることが、何よりうれしいんです。ですから、いつも褒められているアイメイトは、本当に幸せだと思います。

 

——— どんなときにアイメイトが大切に育てられてきたと感じますか?

アイメイトたちは、使用者さんの愛情をいっぱい受けて暮らしてきましたから、とても穏やかです。留守番をするときは悲しそうな表情をしますが、どんなことがあっても怒ることはありません。喜怒哀楽の「怒」がどこにもないと思うくらい穏やかです。

和田さんの家族となったリタイア犬はどこへ行くにも一緒です

 

——— どんな使用者と過ごしていたのか気になることはありませんか?

リタイア犬の使用者さんが誰かを聞くことはありませんが、この子たちの様子を見ながら、なんとなく男性か女性かを想像することがあります。散歩中に眼鏡をかけたすらっとした人に寄っていこうとするのを見ると、「ご家族にこういう方がいらっしゃったのかな」などと思います。

未来のある子どもたちにアイメイトを知ってもらう意味

——— リタイア犬と一緒に地域の小学校や中学校へ出かけて、授業をされているそうですね。

「大切に育てられたアイメイトの一生が幸せだ」ということを、周りの人たちに伝えていくことが私の使命だと思っています。そのひとつとして、小中高、そして大学、ときには自立支援施設などさまざまな場所にリタイア犬と訪ね、アイメイト(盲導犬)を知ってもらうための授業をさせていただいています。実際にこの子たちを見てもらうことで、アイメイトがどんなに幸せだったのか、きっとわかってもらえると思っているんです。

和田さん自作絵本のお気に入りの1ページ

 

——— 素晴らしい活動をされていますね。

未来のある子どもたちがアイメイトを知ってくれることはとても意味があると思うんです。毎回、授業では「犬(アイメイト)は怖くない」ことを知ってもらうために、リタイア犬とお散歩体験をしてもらっています。ゴールでは私の手作りのしおりを子どもたちにプレゼントしているんですよ。子どもたちがお家に帰って、家族にアイメイトのことを話したり、そのしおりを見せたりしてくれることで、その輪が広がっていくといいなと思っています。

和田さんが子どもたちにプレゼントしているしおり

他にも、犬たちを連れてワンワンパトロールをしたり、10カ所ほどの老人ホームを訪ねて犬と触れ合っていただいたりする活動もしています。

 

——— リタイア犬のほかに、不適格犬も引き取られたそうですね。

体質を理由にアイメイトの候補から外れ、2歳のときにわが家にやってきてもうすぐ6歳になる子はとても穏やかです。ある老人ホームで、病気で怒りが強く出てしまう方が、この子をたたいたことがありました。周りはハラハラしていましたが、この子は平然としていて、結局は怒っていたその方が笑い出してしまったというエピソードもあります。「ほら、僕の勝ちでしょ」みたいな顔をして、しっぽを振ってまたその人のところに寄っていく姿に、側にいた方もみんな笑顔になりました。

リタイア犬たちは私の生活そのもの。大変だなんて感じたことはありません。

——— 和田さんのバイタリティーはどこから生まれてくるのでしょう?

「4人の子どもたちが無事に育ったのは、私の知らないところで地域の方が見守ってくださっていたからなんですよね。だから今度は私が皆さんに恩返しをする番だと思うんです。もちろん、私自身が楽しんでいるから、続けてこられたんですけれど。「苦労はないの?」とときどき聞かれることもありますが、犬が大好きですし、この子たちは私の生活そのものですから、大変だなんて感じたことはありません。主人は「お母さんから犬をとりあげたら寝込んじゃうね」と笑っています。

 

——— これからも、今の活動を続けていこうと思いますか?

この子たちも、あと何年かすれば間違いなく亡くなるときがきます。でも、それは人間も同じで、命あるものは平等に死が訪れます。だから生きている間に充実した時間を過ごさなくてはいけないと、この子たちが私に教えてくれました。今度は、それをひとりでも多くの皆さんに伝えていくことが私の役目だと思っています。

 

——— ありがとうございました。

2018年12月2日公開