大音清香さん/医療法人社団済安堂 井上眼科病院(東京・御茶ノ水)

障害のあるなしに関わらず、病気になれば皆病院にかかります。なかでも眼科は、視覚障害者にとって目の検査などで利用する身近な場所の一つです。

 

東京・御茶ノ水にある井上眼科グループでは日頃から、視機能に障害が生じた方の気持ちを理解するという目的で、医師や看護師以外の受付スタッフなども対象としたスタッフ研修を行っています。具体的には、座学で新たな知識を得ることに加え、白杖歩行の人を想定した誘導(ロールプレイング)、アイマスクをつけてお金を触りそれを金額順に並べる体験、さらにはアイメイト(盲導犬)の体験歩行やアイメイト使用者を想定した誘導など、多岐にわたって実際に経験することにも力を入れています。

 

視覚障害者に寄り添ったサポートを常に模索しているという、同病院の名誉看護部長、教育担当部長を務められる大音清香さん(医学博士)に、病院におけるアイメイト(盲導犬)の受け入れなどについてお話を伺いました。

名誉看護部長、教育担当部長を務められる大音清香さん(医学博士)

実地研修から学ぶもの

——— 職員の研修にアイメイト(盲導犬)の体験歩行などを取り入れてくださっていますね。

私どもは眼科ですので、他の科より視覚障害のある方に接する場面も多く、比較的盲導犬と関わる機会は多いと思います。そのため、医師や看護師以外の受付スタッフなど、職員全員が研修に参加することが基本としています。

 

——— アイメイトの体験歩行は、どのようなコースを使われるのでしょうか?

2017年2月に実施した際は、当初、別棟のクリニックからエントランスを通って本院まで歩くコースを予定していたのですが、あいにく雨が降ってしまいました。そこで予定を変更し、地下通路を使って歩きました。階段やエレベーター、曲がり角があり、予定していたよりも時間がかかるコースとなりました。また、アイメイトとの体験歩行だけでなく、アイマスクをしてサポート役の人につかまって歩く体験もしています。

 

——— 研修を受けた職員の方はどのような感想を持たれますか?

体験歩行では、アイメイト使用者が階段を上り下りする時は、一度止まって指示を出してから犬が歩き出す、角は直角に曲がるなど、初めて知ることも多いようです。参加者はかなり緊張したようですが、「目が見えない人は普段こうやって歩いているんだ」ということがよく理解できた貴重な体験だったようです。なかには犬が苦手というスタッフもいましたが、研修後は「経験できて良かった」と話しています。

 

研修では、アイマスクをつけてアイメイト(盲導犬)の体験歩行なども行う

 

患者さんによって声のかけ方や対応方法を考える

———アイメイト(盲導犬)使用者が診察を受けにきた時、周りの方の様子はいかがですか?

アイメイト(盲導犬)をお連れの患者さんがいらっしゃった場合は、スタッフから他の患者さんに、「盲導犬をお連れの方がいらっしゃいますので、ご理解とご協力をよろしくお願いします」と先に声をかけるようにしています。あわせて、「アイメイト(盲導犬)は、今、仕事中なので声をかけないでください」とお願いしています。眼科は、見えない・見えにくい患者さんが多くいますので、声でインフォメーションすることが大切なのです。皆さんとても協力的に対応してくださいますよ。もし、犬が苦手な患者さんがいらっしゃれば違う場所にご案内することもできます。

 

——— アイメイト(盲導犬)を連れていることで、患者さんへの対応が変わることはありますか?

他の患者さんと何も変わりはありません。盲導犬をお連れの方に限らず、視覚障害の患者さんの様子や仕草を見て、「声をかけたほうがいいかな」と思ったら自分から名乗るよう指導しています。例えば、「このクリニック看護師の○○です。お困りのことがあればお手伝いします」という感じですね。

 

——— 見える側から声をかけることが大切なのですね。

はい。そして、その患者さんの希望を聞きます。ニーズは一人ひとり違いますので、それをしっかりと伺うということですね。「あなたのことを気にかけていますよ」ということを、言葉だけではなく、声のトーンや雰囲気も考えて接するように指導しています。

 

——— 患者さんによって声のかけ方や対応方法を変えるのはとても難しいことだと思います。

見えないと一口に言っても、見え方は患者さん一人ひとり全部違いますからね。私の知識や経験、患者さんの体験談を基に、眼科の患者さんが関わる場面で、だいたいの視力や視野に応じた対応についてガイドラインをまとめましたが、それはあくまでもテキスト上のこと。眼は感覚器の1つですから、なかなかテキスト通りにはいきません。徐々に見えなくなる方もいれば、ある日突然見えなくなる方もいて、それぞれに必要なサポートは異なります。その方の気持ちを汲んだり、心の変わり様を把握したりと、患者さん一人ひとりにどのように寄り添うかということが最も大切だと考えています。

 

アイメイト(盲導犬)に対する理解を広げる

——— アイメイト調査では、医療機関でも受け入れを拒否されたという例が見られました。

私が大学病院に勤務していた35年位前、「盲導犬を連れた方が予約されているのですがよろしいですか?」という受付からの問い合わせに、総務部から「待った」がかかったことがありました。普通に考えれば、付添の方といらっしゃるのと同じなのですがね。いわゆる病院の環境として、まだまだ受入が不十分だった時代です。

 

最近は、アイメイト(盲導犬)や介助犬が来院することに対して理解が広がりつつありますが、それでもまだ、実際に人間以外の動物が病院に入るということに違和感を感じる人がいるのでしょうね。でも、実際に経験すれば、アイメイト(盲導犬)がどういう犬なのか、すぐにわかっていただけると思います。

 

——— アイメイト(盲導犬)に対する理解をもっと深めていかなくてはいけないということですね。

目の不自由な患者さんを受け入れるということは、介助者であれ、盲導犬であれ、介助犬であれ、一緒に受け入れていくという気持ちが大切だと思います。病院の担当部署も、そうしたことをもっと発信していかなければなりませんね。

 

——— ありがとうございました。

 

2019年1月25日公開