白杖を片手に「純度100%の暗闇」のなかへ!

アイコ:今日は初めてDIDに参加しました! 入口で白杖をもらって真っ暗な空間に入ったときは、どこかにぶつかるんじゃないか、転ばないかなと、とっても緊張しました。どこに向かって歩いたらいいのか分からなくてオロオロしていたら、「アテンド」と呼ばれる案内役の方が気づいて声をかけて、暗闇をスムーズに案内してくれたのがすごく心強かったです。
関川:DIDの会場となっているのは、私たちが「純度100%の暗闇」と呼ぶ光を完全に遮断した空間です。案内を務めるのは、特別なトレーニングを積んだ視覚障害者のスタッフ。暗闇での案内人であり、寄り添う人という意味で、私たちは「アテンド」と呼んでいるんですよ。DIDには、20人ほどのアテンドがいます。

アイコ:プログラムの内容は季節ごとに変わるそうですが、今回、私が参加したのは「秋のまっくら大運動会」がテーマ。初対面の人たちとチームを組み、暗闇で玉入れなどの競技にチャレンジしました。最初は「何も見えないのにできるのかな!?」と心配だったけれど、いつの間にかすっかり楽しんでいました。
詳しい内容は、これから初めて参加されるみなさんのために内緒にしておきたいと思いますが、いちばん印象的だったのは、暗闇のなかではチームの人たちを身近に感じて、すぐに打ち解けられたこと。他の人たちの存在を感じたり、声が聞こえたりすることに、とっても安心感を覚えました。
関川:DIDは、は視覚障害の疑似体験だけではなく、視覚に頼らない環境のなかで人との関わりや感覚を再発見する体験となります。暗闇だからこそ、お互いの感覚や存在に耳を傾けるし、そこで対話をすることで信頼や共感も生まれやすいのだと思います。
最初は不安だったけど、アテンドの方が明るく案内してくれてホッとしました
アテンド役は「見えないこと」が強みになる
アイコ:なるほど、そうなんですね。相手の声から距離を想像したり、指先の感覚だけで触れたものをイメージしたりなど、視覚以外の感覚をいつもより集中して使った気がします。
私たちのグループを楽しく案内してくれたのは、アテンドネーム「ななみん」さんです。ななみんさんにもお話を聞きたいのですが、DIDのアテンドに参加されたきっかけは何だったのでしょうか?
ななみん:DIDのアテンドに興味がある視覚障害者向けの3日間のインターンシップ・プログラムがあるのですが、それに私の友人が参加したんです。そうしたら「めちゃくちゃ良かったよ!」って。それで、私も行ってみようかなと思いました。その友人が話していたのが「暗闇のなかでは、自分が見えないとか他の人と違う部分があることを忘れるくらいのいい時間だった」ということでした。

アイコ:実際に参加してみて、どうでしたか?
ななみん:友人とはちょっと違う感想なのですが、私のなかで大きかったのは「視覚障害が強みになる」ことでした。私は高校まで視覚特別支援学校に通いましたが、大学に進学してから障害のことをマイナスに感じてしまったり、周りの友達に遠慮したりすることがありました。でも、DIDでは「見えないこと」が逆に強みになる。そこに惹かれて私もアテンドする側になりたいなと思ったんです。また、暗闇のなかでは人と人の距離が縮まることも、魅力に感じたひとつです。
関川:暗闇のなかでは、見える人も見えない人も関係なく対等です。むしろ立場が逆転することもあるんですよね。
どうして暗闇では人との距離が縮まるの?!
アイコ:アテンドしていても、参加者同士の距離が縮まっていくのを感じますか?
ななみん:はい、すごくよくわかります。「暗闇=怖い」と思うのか、最初のうちは緊張している人も多いです。でも、みんなで暗闇を進んでいくうちに慣れていって、お互いのことを信頼し合っていく感じが伝わってくるんです。それは、みんなの声にも表れます。心がほぐれていく様子が伝わってきたときは、アテンドとしてすごく嬉しいです。
また、大人と子どもでも反応が全然違うんですよ。子どもは慣れてしまうと、すぐに自由に動きまわるようになります。むしろみんなをリードしてくれるくらいなんです。

アイコ:知らない人同士なのに、話しながら暗闇をいっしょに歩くうちに気持ちの距離が縮まっていくのを私も実感しました。あれって、なぜなのでしょうか? 不思議ですよね?!
ななみん:暗闇のなかを移動するために肩に触れるとか、みんなで輪になるといった物理的にも距離が近づく場面もありますし、お互いの見た目の印象、年齢などを気にせずに関わり合えるところが、みんなの心を解く一つの要因になっているのではないでしょうか。
アテンドを始めたときに、先輩アテンドから「アテンドが全力で楽しんだら、みんなに伝わるよ」と言われたのですが、最近ようやくその言葉が腑に落ちるようになりました。暗闇での、そのとき限りの出会いやそこで生まれる会話を、私もいっしょに楽しむことができていると、それがきっとお客さんにも伝わる気がするし、伝わっているといいなと思います。
関川:視覚を遮断することで、見た目や固定観念で判断することなく、さまざまな違いを超えて対等な対話を体感するプラットホームとして始まったのがDIDです。「初対面同士でもリラックスして話せた」という声はお客様からもよく聞くのですが、見えないからこそ素の自分でいられて、より本質的なコミュニケーションが生まれるのかもしれません。
それに暗闇だと、お互いに「こっちだよ」「ここに段差があるよ」と声をかけて助け合わないと進めませんよね。「助ける・助けられる」というあたたかい雰囲気が自然と生まれてきます。
DIDに参加したのがきっかけで、結婚された方もいるんですって。びっくり!
「楽しい」にプラスして、人それぞれの気づきがある
アイコ:DIDに参加されて、ななみんさんご自身の気づきや変化はありましたか?
ななみん:暗闇から出たあとに参加者のみなさんと話す時間があって、いろいろ質問を受けるのですが、意外と視覚障害者がどういう時に困っていて、何が必要なのかを知らない人が多いんだな、と感じます。「困っていそうだと思うけど、どうしたらいいのかわからない」という話はよく聞きますね。
私自身の内面的な変化でいうと、人前に出ることを恐れなくなりました。以前は人前で話すのが苦手で、「私にアテンドができるのかな」と思っていたのですが、得意とまでは言えなくても躊躇しなくなりました。今年の夏に個人的にフィリピンに行って、児童養護施設の子どもたちと英語でワークショップをする機会があったのですが、マイクの電源が入らなかったので、じゃあ大きな声で話せばいいやと思って「みんな聞いてー!」と声をはりあげたら、ちょっとびっくりされました(笑)。

アイコ:アテンドとしての経験を重ねて、人前で話す度胸もついたのですね。最後に、まだDIDに参加されたことのない方へメッセージをお願いします!
ななみん:DIDは「ソーシャル・エンターテインメント」と呼んでいますが、「ソーシャル(社会的)」な部分に興味を持って参加される人ばかりではありません。友達に誘われて面白そうだったから参加したという人も多くいます。単にエンターテインメントとして「おもしろかった!」だけで終わったとしても、それはそれで素敵なことだと思います。
でも、やっぱりDIDに参加すると、人それぞれに何か感じるものや気づきがあるのではないでしょうか。私としては、みなさんにDIDのアテンドを身近な存在として感じていただけたら、まず一つの役目は果たせたかなと思います。ぜひ遊びにいらしてください。
アイコ:今日はありがとうございました! 私もまた参加したいです。
プログラム案内 ダイアログ・イン・ザ・ダーク
会場:アトレ竹芝シアター棟 1F ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」
(東京都港区海岸一丁目10番45号)チケット:事前予約制
※参加は小学生以上
詳細は公式ホームページをご確認ください東京・竹芝にある常設会場では年間を通してDIDを開催。現在開催中のプログラム 『身体感覚を磨こう。秋のまっくら大運動会』は2025年11月24日(月・祝)まで。2025年12月以降は別のテーマで開催予定です。詳細はホームページをご覧ください。【2025年11月時点の情報】
2025年11月6日公開








