話を聴き、心を感じる

神奈川県厚木市の総合病院の一角。テーブルを挟んで入院患者と向かい合わせに座ると、水野晴彦さんはこう切り出した。「僕は目が全く見えないんです。あなたのお顔も分からない」。患者は、驚きの表情を浮かべる。「えっ、本当ですか?全然気づかなかった。いやあ、たいしたもんだ」。それもそのはず。水野さんは相手の目をしっかり“見て”、話に耳を傾け続けるのだ。

温かい心でひたすら耳を傾ける

傾聴とは、アメリカで生まれたカウンセリングの手法。問題解決のためにアドバイスをするのではなく、ひたすら相手の話を聞くことに主眼を置く。

「相手が話したいこと、伝えたいことを温かい心で受け止める。感心=感じる心を持つことが大切です。他人を説得しようたって無理なんです。たとえ『死にたい』と言っても、最終的には自分で『ああ、これじゃまずいかな』と気づかないと変わることはできない」

相手の思いを真摯に受け止め、自己解決のための道筋を整理する手助けをする。それが傾聴ボランティアだ。

自力で活動場所を開拓

 

水野さんが傾聴の勉強を始めたのは、2004年、定年退職した直後のこと。ラジオ番組で初めて知り、興味を持った。信用金庫に40年以上勤めて融資の相談などを受けていたから、悩みを聞き解決に導くのはお手のもの。失明してから落語を本格的に始めたほど、人とコミュニケーションを取ることが好きな性格だ。「耳が聴こえてしゃべれればできる仕事ではないかと。すぐに傾聴の養成講座を開いている団体に電話しました」。目が見えない人が受講するのは初めてだった。

基礎講座を終えて早速、傾聴を実践する場を探した。まず地元の厚木市役所に足を運ぶと、部署をたらい回しにされた。「どの担当も傾聴のことを知らないと言うので、3カ所で1時間ずつ同じ説明をしたけれど、需要はないと。ところが、最後の建物を出ようとしたら『傾聴ボランティア求む』と病院の募集チラシが張ってあったんですよ」。職員を問い詰めると、1年近くも前のもので存在を忘れていたという。結局、その病院と直接交渉して活動の場を得た。以来7年間、毎週欠かさず患者の悩みに耳を傾け続ける。

愛の反対は無視

定年の3年前、57歳で失明。抗癌剤治療の影響で「レーベル病」が顕在化した。最初は左目、右目は1年弱の間に徐々に見えなくなった。「不思議と落ち込まなかった。杖の訓練を受ける前から頭の中の地図を頼りに歩いちゃった」。定年までの3年間は、2時間近くかけて電車とバスを乗り継ぎ、白杖で通った。会社前の音声信号の始動時間を早めてもらったりと、安全に通うための交渉も自力で行った。

「幸い、杖で危ない目に遭ったことはなかったけれど、道が分からなくなった時、俺みたいな爺さんが声をかけても誰も相手にしてくれない。ところが、アイメイトがいると若い女の人が頼みもしないのに『何かお手伝いすることありますか?』だもんね」

同じ中途失明者でも、しばらく外に出られない人もいれば、水野さんのようにすぐに明るく前向きに行動を起こす人もいる。

「目が見えなくなったりという現象は同じでも、状況や思いは人それぞれ違う。だから、その悩みに『気持ちは分かる』とはなかなか言えない。でもね、愛の反対は無視なんです。“感心”を持って悩みに耳を傾けることが、思いやりや愛情だと僕は思うんです」

 

アイメイト55周年記念誌『視界を拓くパイオニア』(2012年発行)より 

文・写真/内村コースケ 

 

2017年7月5日公開