海外でも変わらず歩けます

佐藤由紀子さん(48)は、これまでに計5回イタリア旅行に行っている。「最初はアイメイトは置いて添乗員さんのいるツアーで行ったんです。当時のアイメイトが11歳だったこと、それに言葉の不安。動物検疫のことも分からないし、一緒に行く可能性すら考えられませんでした」

アイメイトのいない旅は消化不良

その1回目のイタリア旅行は楽しかったが、消化不良な思いも残った。だから、5年後の2002年に再びイタリアを訪問した際には、下調べを十分にして個人旅行で夫婦とアイメイトで3人揃って行った。

もともと旅行が好きだった。結婚と同時にアイメイトを持ち、弱視の夫とアイメイトと一緒に、九州、沖縄、東北と、あちこちを鉄道やバスだけでなく、飛行機や船も乗り継いで旅をした。イタリアに興味を持ったのは、ベネツィアが舞台の小説を読んだことがきっかけ。5年おきの夫の長期休暇に合わせて海を超えた。イタリア旅行は回数を重ねるごとに密度を増していった。

旅を濃くさせたのはアイメイトの存在に加え、イタリア語を身につけたことだった。一人で何度もスペインを旅している先輩使用者から、「現地の言葉を話せるとぜんぜん違う」と経験を聞いたのがきっかけだった。以来、茨城県日立市の自宅から都心のイタリア語教室へ毎週通った。

イタリア語を学んで現地の人と交流

アイメイトがいてイタリア語が話せるようになると、楽しい経験や出会いが生まれた。インターネットのメーリングリストを通じて知り合ったイタリア人の盲導犬使用者に現地で会い、そこから交友関係が広がった。日本人の妻を持つ盲導犬使用者とは、日本とイタリアを行き来する関係に。アイメイト協会へ見学に連れて行ったこともある。

とはいえ、アイメイトとのイタリア旅行にはいくつかハードルがあるのも事実だ。

「日本人は十把一からげに欧米の方が進んでいるという言い方をしがちですが、ツーリストとしてイタリアを見た限りでは、今の日本であれば日本の方が理解は進んでいると思います」

ホテルのレストランで入店を拒否されて、日本の身体障害者補助犬法に当たるイタリアの法律をコピーした紙を見せて説明したこともある。「ナポリの美術館では、警備員に止められたのですが、説明したら『見なかったことにしてあげる』と通してくれました。そういう問題じゃないんですけどね(笑)」

(左上)イタリアの友人宅で(右上)フィレンツェにて(左下)ボローニャの街角で(右下)ローマにて

特に、実情に合わない日本側の検疫のルールは、旅の一番のプレッシャーだと言う。帰国後の検疫をパスするには、現地機関の健康診断証明書が必要。イタリアの場合、街なかの保健所に行く必要がある。「それが事前予約制で午前中しかやっていなくて、さらに急に場所や時間が変わる。短期滞在でそれはとても困る。せめて帰国後に日本の検疫所で検査してもらえる形にしてもらえれば・・・」とはいえ、イタリアは良くも悪くもおおらかな国。アクシデントも含めて楽しまなければ損だ。

イタリアでも颯爽とアイメイト歩行

「アイメイト歩行自体で、イタリアで違いに困ったことは何もありません」

逆に友人のイタリアの盲導犬が日本の駅の自動改札に戸惑ったことはあったという。いずれにせよ、そうした細かなことはすぐに解決できるものだと佐藤さんは言う。

佐藤さんは、旅の情報収集やイタリアの人との交流に積極的にインターネットを活用している。また、時には日常の歩行で、携帯電話の音声案内付きGPSナビゲーションを利用。こうした新しいものを積極的に取り入れる姿勢もまた、海外でも颯爽と歩ける秘訣なのかもしれない。

「もうイタリアでも自由に行動できるようになってきたので、夫が定年を迎えたら長期滞在してみたいですね。でも、本当はその前にアイメイトと2人だけで行ってみたいんです(笑)」

このコメントをいただいた4年後の2016年9月、佐藤さんは実際に新しいアイメイトと5回目のイタリア旅行を実現させたそうだ。

 

アイメイト55周年記念誌『視界を拓くパイオニア』(2012年発行)より 

文・写真/内村コースケ 旅行写真提供/佐藤由紀子

2017年9月1日公開