自立心とアクティブ・ライフを支えるアイメイト

「目が見えないから何もできない」というのは間違いだ。確かに視力を必要とすることには手助けがいる。アイメイトの役割も歩行を補助することだ。しかし、できることにまであれこれと手を差し伸べるのは、先入観と結びついた逆差別だという見方もできる。

国産盲導犬第1号使用者の河相洌(かわい・きよし)さんは、「今でも病院で検査を受けた後などに、『靴下をはかせてあげましょうか?』なんて言われるんですよ。最近は昔と比べて障害者を取り巻く社会環境は随分と改善されたとは思いますが、そういう善意の皮をかぶった根本的な差別意識も根強く残っていると思います」と、5年前のインタビューで語っていた。

アイメイトを使えば単独歩行が可能になる。それにチャレンジするのは、自立心の高さの表れだとも言える。そして、障害の有無に関わらず、自立心が高いことと活動的であることには、相関関係があると思う。今回お話を聞いたアイメイト使用者、八田冴子(はった・さえこ)さんは、会社勤めをしながらマラソン、英会話、フラワーアレンジメントなど多彩な趣味を持つ女性だ。昨年秋には、オーストラリアへ語学留学もした。そんな八田さんに、アクティブ・ライフとアイメイトとの関わりを語ってもらった。

毎日の通勤はアイメイトと

八田さんは、ヘルスキーパーとして都心の外資系企業に勤めている。社内にあるマッサージルームに詰め、午前中に2人、午後に4人の社員の身体をほぐすのが平均的な1日のルーティンだ。通勤はアイメイト歩行で地下鉄を使って約1時間。今は午前10時出社のためラッシュアワーのピークとずれているが、以前の勤め先では毎日満員電車に乗っていた時期もあった。

「今のアイメイトは2頭目で、電車通勤は6年目です。最初の頃はアイメイトを電車に乗せるのが少し心配だったのですが、当のアイメイトは全く平気な顔で乗車したので、あ、余計な心配だったんだなと思って。逆にアイメイトが先に乗って、『早くおいでよ』みたいにしっぽを振ることもあるほどです」

アイメイト協会には時々「満員電車に犬を乗せてかわいそうだ」といったクレームが寄せられるという。「必要がないのに嫌がる犬を無理やり満員電車に乗せている」と思い込んでいるのか、日常の通勤風景の中に「犬」という“異物”を見て反射的に感情的になっているのかは分からないが、そうした見方が実情とは異なっているということは、多くの使用者が講演会などで訴えていることだ。

最近は、「チョーク」(リード=引き紐を引いて犬に『いけない』と伝えること)に対する誤解を解くことも多いという。「今年、私の会社の『ファミリーデー』というお祭りで、もう一人のアイメイト使用者と講演させていただきました。その際にも、チョークについて『アイメイトは機械ではありませんので、失敗したり間違うこともあります。そういう時にちょっと首に刺激を与えて、いけないよって事を教えています。結構大きな音がするのでびっくりするかもしれないですけれど、それはあくまで瞬時に何がいけないか気づいてもらうために刺激を与えているだけで、いじめているわけではないのですよ』ということは伝えさせていただきました」

「何か手伝おうか?」「大丈夫」「そう、分かった」

日々の通勤でも、少し世間の「ズレ」を感じることがある。視覚障害者のホーム転落事故を受け、最近は駅員のサポートが以前より手厚くなっているという。「ありがたいことなのですが、良くも悪くも手厚すぎるかな、ということを感じていまして・・・。特に混んでもいないホームで駅員さんが後ろから3人くらいついてきて『盲導犬通りまーす!』みたいな。私はお姫様じゃないし、皆さんに道をあけていただく必要はないのですが・・・」と、八田さんは慎重に言葉を選びつつ、困惑ぎみに話す。

今の勤め先の外資系企業には、外国人の社員が多い。ベトナム系の友人ができたのをきっかけに英会話を習い始め、昨年10月にはオーストラリアへ語学留学をした。

「オーストラリアでは『何か困ってる?手伝おうか?』と皆さん声をかけてくださるのですが、『大丈夫』と言えば、『そう、分かった』で終わるんです。会社で仲良くなった外国人社員やグローバルな日本人社員も私に対してそんな感じで自然な対応なんです。私が触れてきた限りでは、グローバルな方はさっぱりとしていて特別扱いをしないと肌で感じるので、接しやすいと思います」

1週間という短い語学留学だったが、大学と学生寮で過ごした海外経験は今後の人生の大きなプラスになったようだ。「私にはとても居心地がよくて。外国に行くことがくせになりそうです」と笑顔を見せる。日本よりずっと早いペースで進む現地の授業に追いつくために、寮に帰ってからも夜遅くまで復習した。そのかいあって英会話に対するモチベーションが高まり、帰国後の外国人の友人とのやり取りも、少しスムーズになったような気がしている。

アイメイト歩行はいつも真剣勝負

八田さんは、大学を卒業して間もなくアイメイトを得た。生まれつき弱視で、中学2年の時に全盲になった。中学時代に盲導犬のテレビドラマを見て以来、漠然と将来は盲導犬を持ちたいと思っていた。その延長で、大学の卒業論文のテーマを盲導犬にした。たまたま同じ大学にアイメイト使用者の教員がいて、何人ものアイメイト使用者や盲導犬ユーザーに直接話を聞くことができた。

「実際にお話を聞いて、私のアイメイトに対する印象がガラッと変わったのは、犬が目的地に連れて行ってくれるわけではなくて、あくまで主体は人間であるという部分です。あるアイメイト使用者の方の『私たちはアイメイトと楽しく歩いているけれど、同時に命を預けています。いつも真剣勝負です』という言葉にハッとさせられました。アイメイト歩行は遊び感覚ではないということに、すごく納得したんです」

実家には18歳まで生きたアメリカン・コッカースパニエルがいたこともあって、ご家族には犬に対する理解があった。犬を人間と対等な存在として尊重すると同時に、アイメイトに対するペットとは違う接し方もわきまえてくれた。「実際にアイメイト歩行をしてみて、犬と歩くということがこんなにも神経を使って、こんなにも犬と対話しながら歩くということを実感しました。歩行指導を受けた際には、最初はなかなかうまくいかなったのですが、同室の3頭目の先輩使用者に色々と教えてもらい、相談に乗っていただいたのが、とても心強かったですね」

アイメイトと共に自立心を育てたい

 

「アイメイト持つことで自立心を育て、自分を成長させたいという気持ちを強く持っていました。責任を持ってアイメイトの世話をする、あるいは入店拒否といった体験も成長の糧になるという思いがすごく強かったので、アイメイトを希望したんです」

そんな自立心の高さの基礎にあるのは、お母さんの育て方のようだ。「母には、私を普通の子として育てたいという意識が強くあったみたいです。おしゃれなんかも、みんなと同じように可愛い格好をさせたりと、常にそうやって育ててくれた」という。

そのおかげで、子供のころは弱視であることにそれほど苦しむことはなかった。「でも、14歳の中学生という思春期ということもあって、(全盲になったことには)すごく混乱して、ショックを受けました。そんな時にたまたま中学の先生に『陸上やってみる?』と声をかけていただいたんです」

「見えないで走るってどんな感じだろう?」と、初めは半信半疑だったが、伴走者と共に走る800m走を実際にやってみると、「私にもできる!」と悩みが晴れていく気持ちになった。

マラソン仲間と共に

社会人になった今もマラソンに形を変えて走り続けている。「4年前に大学時代の友人が伴走をしてみたいと言ってくれたのをきっかけに、マラソンの大会に出るようになりました」。今は月に2回ほど仲間たちと集まって、東京スカイツリー周辺や青山のショッピングストリートなどを走る「街ラン」を楽しんでいる。大会出場も重ね、いくつかの大きな大会の視覚障害者部門で優勝している。

「風を切るスピード感が心地良い」と言う。冬にはスキーも楽しむ。大好きなアイドルグループやバンドのコンサートにも出かけるし、友人と連れ立ってテーマパークにも行く。アロマセラピストの資格を取り、今はフラワーアレンジメントも習っている。

「アイメイトと生活していると社会との関わりが密になります。アイメイトを通じて色々な所で色々な人と知り合うことによって、すごく視野が広がりました。そして何より、アイメイトと歩くようになってから、けがをすることが本当になくなりました。白杖歩行をしていた頃はしょっちゅう青あざを作っていたんですよ。アイメイト歩行をすることによって安全面もしっかり確保されますし、やはりアイメイトと一緒に歩くのは楽しい。世界を広げるという意味で、アイメイト歩行に挑戦するのはいいことだと思います」

 

文・写真/内村コースケ(2017年12月取材)

2018年7月20日公開