連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

サウンドテーブルテニスが目標と責任感をくれた ブラインド×卓球 (1)

日本視覚障害者卓球連盟 役員/静岡県STTクラブ所属 杉浦彰さん

「サウンドテーブルテニス(STT)」は、卓球台の面から4.2㎝上に張ったネットの下を、4個の金属球を入れた音の鳴るボールを転がして打ち合う卓球競技だ。

視覚障害者によるネットの下を通す形式の卓球は、70年ほど前から「盲人卓球」と呼ばれて全国各地で行われてきた。しかし、当初は、卓球台の周囲すべてをフレームで囲むもの、峠のように台の中央を高くしてボールの速度を加減させるものなど、やり方はさまざまだったという。

2002年に盲人卓球から呼称を変えたSTTでは、一枚板の卓球台を使い、アイマスクをした競技者(※)が、ボールの音を頼りにスピーディーに打ち合う。卓球台のそれぞれのエンドラインとサイドの一部には、ルール上重要な役割をもつ高さ1.5㎝のフレームがついていて、打ったボールが相手のラケットに触れる前にエンドフレームに当たれば得点となる。しかし、打ったボールがネットに触れて相手コートに達しなかったり、フレームに当たってもボールが台から落ちたりすれば相手の得点になる。瞬発力や集中力が必要とされる競技だ。

全国にSTTのクラブがあり、国体にあわせて開催される「全国障害者スポーツ大会」の種目にも採用されている。また、日本視覚障害者卓球連盟が主催する「全国視覚障害者卓球大会」や地域ブロックごとの大会なども行なわれる。海外にも似た競技があるが、国際ルールはまだ統一されていない。

※アイマスクをしない種目もある

大会の様子(奥の選手が杉浦さん)

【参照】
日本視覚障害者卓球連盟
NHKパラスポーツ図鑑

音を聞き、瞬時に動かないと打てない

サウンドテーブルテニス(STT)は、ボールをネットの下に通して打ち合う視覚障害者の卓球競技ですが、打ち合いのスピードが本当に速いですよね。ボールの音で位置を判断しているのでしょうか? 

そうです。サーブだと時速100キロくらいは出ているので、相手の打ったボールがこちらに届くまで0.1秒を切るんです。ですから、相手のラケットに球があたった音で、瞬時に判断して動かないと間に合いません。音だけでなく、自分が打ったボールの角度から、相手がどのあたりに打ち返してくるのかなども考えながら判断しています。

打ち返したボールが相手のエンドフレームに当たることが第一のルールですが、ボールが速すぎてエンドフレームを飛び越えてしまうこともある。そうなると打った人の失点です。それから、卓球台とネットの間が42㎜に対してボールは40㎜ですから、ネットに触れないように素早く打つのには技術が必要です。

今はルールが改正されましたが、10年ほど前はもっと厳しくて、ラケットでボールを打つときに、「明確な」いい音がしないと相手の得点になっていたんです。一般の卓球ではラケットにラバーやコルクを張ることがありますが、STTの場合は木肌がむき出しのままで使います。ボールがあたっていい音がするためには、ラケットの中央か少し先で打たなくてはいけません。「明確な」というルールではなくなったのですが、いまでもラケットで打つときには音がしないといけないことになっています。

スピードだけでなく、正確性も求められるのですね。そのために、普段どのような練習をしているのでしょうか?

たとえば、ほかの人たちが競技をしている間、卓球台のそばに立って球拾いをすることも上手になるための練習のひとつです。台から外れて下に落ちる球をいかに早く拾うか。それが「コース読み」になりますよね。どこからボールが落ちるかを予想して、なるべく早くそこに行って、ボールが床に落ちる前に手でぱっと取る。そういうことをやっています。

最近では、速いボールをなるべく金属球の音がしないように打つ練習もしています。音がしなければ、相手にボールの位置がわかりません。回転をつけて球をすべらせるように打つことで、ボールの中にある4個の金属球を真ん中に集めて、音をさせない練習をするんです。

いま全国大会に出ているような選手は、みなさんボールの音がしないように打ちますよ。あまりにも速くて音がないので、どこにボールが来たのかわかりません。あっという間なので、相手も空振りしたり、タイミングがずれて早く振ってしまったりすることがあります。

練習会の様子。音を聞いて素早く球の位置を判断する

一日10時間の練習会。大会は体力勝負

STTクラブは全国にあるそうですが、杉浦さんが所属されている静岡県STTクラブの活動について教えてください。

静岡県は細長いので、3つの地域に分かれて練習などを行なっています。東部は主に沼津、中部は静岡、西部は浜松でそれぞれ練習をしています。メンバーの年齢層の幅は広く、10代から70代まで。社会人が多いですが、高校生もいますよ。僕はいま73歳ですが、最近ではどこに行っても年長のほうですね(笑)。

できれば障害の有無にかかわらず、いろいろな人に練習に参加してもらえたらいいのでしょうが、いまのところは視覚障害者が中心です。地域や時期にも寄りますが、4、5人から多い時で10人くらいが月数回の練習会に参加しています。それ以外に個人でも練習をしています。

大会に出場するには体力も必要なんです。たとえば静岡の県大会で決勝戦まで進むと、1日5試合くらいに出ることになります。ですから、練習会も朝10時から始めて、終わるのは夜8時。合間に2食とりますが、約10時間です。そのくらい練習しておかないと、大会のときに体力がもたないんですよ。集中力が必要な競技なので精神的にも疲れます。

 

2020年9月23日公開