連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

仲間と一緒に、それぞれの「見えない壁」に向き合う ブラインド×クライミング (3)

NPO法人モンキーマジック代表 フリークライマー 小林幸一郎さん

さまざまな理由で「壁」をつくるのは自分

年齢や障害もさまざまな人たちが集まって同じスポーツに取り組むことで、お互いに新しく気づくこともありそうですね。

モンキーマジックでは、「障害者クライミング普及活動を通じて、多様性を認め合えるユニバーサルな社会を実現し、より成熟した豊かな社会を創ります」というビジョンを掲げていますが、障害者クライミングの普及は、豊かな社会をつくるための手段だと思っているんです。

パラクライミング講習会にて

視覚障害者の世界にいると、自分たちの問題にばかり目がいってしまい、ほかの障害のことなどにあまり目がいかなくなってしまいがちです。でも、視覚障害者も社会を構成するピースのひとつ。いろいろな人たちが集まるマンデーマジックは、ひとつの社会の箱みたいなものです。

クライミングは障害者のためのスポーツではないし、マンデーマジックも障害者だけを対象にしたイベントではありません。初めての人も、経験者も、興味のある人たちがみんな一緒に集まってクライミングを楽しむ。そういう場に参加することで、それぞれが自分に何ができるのか、どう行動できるのかを考えるきっかけにもなります。そういう場所が必要だし、広げていきたいと思っています。

最後に、クライミングの魅力はどんなところにあるのでしょうか?

クライミングは、誰かと勝ち負けを競うのではなく、「自己満足・自己達成型」のスポーツです。一人ひとりが自分の目標や限界に向き合って、少しでも上に登れるように頑張る。それは、目の見えない人も、小学生でも、70代でも同じです。クライミングを通じて、身体だけではなく気持ちの面でも自信を得たり、自分の可能性を広げたりすることができますし、障害者がクライミングに取り組むことで、QOL(生活の質)の向上や社会参加、自立支援にもつながります。

よく「私にもできますか?」という質問をいただきます。「視覚障害があるけどできますか?」「片足がないけどできますか?」「麻痺があるけどできますか?」という質問もあります。でも、それに対してのモンキーマジックの答えは、「わかりません」。わからないからこそ、やってみてほしい。できるかどうかも、楽しいかどうかもわかりません。でも、私たちはすごく楽しいと思ってやっています、と伝えています。

「見えない壁だって、越えられる」がモンキーマジックのコンセプトですが、「壁」は人によって違います。「もう年だし」とか、「運動不足だから」、「高所恐怖症で……」とか、さまざまな理由で見えない壁をつくっているのは、自分です。でも、やる前から自分の可能性を閉じてしまうのはもったいない。まず一歩を踏み出すことが、壁の向こうにある世界を広げていくことにつながるのではないでしょうか。

 

2020年6月18日公開