連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

「声」でコミュニケーションする ブラインド×サッカー (2)

NPO法人日本ブラインドサッカー協会 D&I事業部(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)/埼玉T.Wings所属 駒崎広幸さん

「声」「音」「壁」を頼りに

フィールドの選手は、どうやって自分の位置を把握しているのでしょうか?

人によって違うかもしれませんが、僕の場合は頭のなかに数学の座標のようなものをイメージしています。味方と相手のゴールキーパーが縦軸、横軸の位置は中央にいる監督の声でなんとなく分かります。自分が座標の4つのエリアのどこにいるのかを考えながらプレーしています。

それから、ブラインドサッカーの特徴として、サイドライン上にフェンスがあるんです。ボールがサイドラインを割らない仕組みになっていて、そのフェンスの壁を触ることで直線のラインが把握できます。そうやって声を聞いたり、壁を触ったりして、位置を確認しているんです。

あと、相手のボールを取りに行くときには、必ず「ボイ!」という声を掛けるルールもあります。スペイン語で「行く」という意味ですが、存在を知らせて危険な衝突を防ぐためです。「ボイ!」と言っても、別にどいてくれる訳じゃないんですけど、お互いに備えることができますよね。

選手のほかに、ゴールまでの距離や角度の情報を伝える「ガイド(コーラー)」と呼ばれる人がいるのもブラインドサッカーの特徴ですね。

ガイドというのは相手側のゴール裏にいて、相手チームの選手との距離、ゴールまでの距離や角度などを声で伝える役割です。ただ、声をかける場所には制限があって、ガイドは相手側ゴールからピッチ全体3分の1まで、真ん中の3分の1は監督、そしてディフェンス側の3分の1ではゴールキーパーが、それぞれ指示を出すことになっています。

声を掛ける人と選手との相性やクセもあって、このタイミングで声をかけてほしいとか、クロックポジションを使ってほしいとか、人によっても違います。練習を重ねていくなかで、お互いの指示のタイミングが段々分かってくるとゴールも決まるようになっていきます。

ときどき、ガイドが実際は左なのに右と言ってしまったり、反対にガイドは正しく指示をしているのに選手が逆方向に動いたり、ということもあるんですよ。ただ、選手はガイドの指示だけを頼りにしているわけでなく、いろいろな音を聞きながら、つねに自分がどの位置にどれだけ動いたかを考えています。そうでないと、とんでもないところへ行ってしまいますから。自分が思っていたところにボールがないときもあります(笑)。それは練習して慣れていくしかないんですよね。

ブラインドサッカー体験から学ぶこと

駒崎さんが担当されている日本ブラインドサッカー協会の事業について教えてください。

僕が主に担当しているのは、「スポ育」という小・中学生を対象にしたダイバーシティ教育プログラムです。ブラインドサッカーは、とくに声の掛け合いがすごく大事な競技。「スポ育」は実際にブラインドサッカーをやりながら、「コミュニケーションの重要性」「チームワークの大切さ」「障がい者への理解促進」などを学ぶ体験型のプログラムです。

たとえば、日常生活でも言葉ひとつで行き違いが生まれることがありますよね。そこに何が足りないんだろう、と考えたときに、お互いの意思確認もそうですし、言葉の質も変えていく必要があるのかもしれない。「ちょっとやっておいて」の「ちょっと」も、人によって受け取り方が違います。そういうことをスポ育のなかで考えてもらっています。

僕がいちばん大事にしているのは、最初にアイマスクをつけたときから、どう気持ちが変わっていくかということ。最初はみんな「怖い」って言うんです。アイマスクをしてボールを使ったゲーム形式で進めていくのですが、やってみると自分一人ではどうにもならないことに気づく。

「じゃあ、周りの人にどうしてもらいたい?」「どうしてあげたらいいと思う?」ということを繰り返していきます。言葉で説明するのは簡単なのですが、子どもたちが実際に体験して、自分でコミュニケーションやチームワークの大切さに気づいていくことが大事です。

大会会場で行う体験会に参加した子どもたちとの様子(写真提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄)

ブラインドサッカーのコミュニケーション力は、日常にも生かせそうですね。ブラインドサッカーを見たことがない方に魅力を伝えるとしたら、どんなところがおすすめですか?

初めてブラインドサッカーの試合を見るときに、衝撃を受けるのは音だと思います。一番大きいのは、選手が壁にぶつかる音。ゴールを奪おうとして目の見えない選手同士が思いっきりぶつかる瞬間、激しい音がします。でも、恐れずにつっこんでいく姿が格好いいんです。ブラインドサッカーの試合中はテニスと同じで、声を出して応援しないのがルール。だから余計に、シーンとした状態のなかで音が響きわたります。

あとは、やっぱりゴールの瞬間ですね! アイマスクをつけているので、シュートがゴールに入ったかどうかはフィールドの選手には分からないんですよ。でも、ゴールに入った瞬間、周りのお客さんたちからワアアっと大きな歓声と拍手が沸きます。あの会場での一体感は、ブラインドサッカー独特の魅力だと思います。

「対等になれる」のがスポーツの力

「スポーツは人生を変える」と仰っていました。それはご自身の経験からでしょうか?

病気が進行していくなかで、いままで出来ていたことが出来なくなって、自信をなくしたときもありました。でも、方法を考えればなんとかなるって、少しずつですが思えるようになっていきました。自分の家から歩いて200mのコンビニに行くのがやっとだったのが、段々と行動範囲が広がりました。新しく出来ることが増えていくと自信につながる。特に僕の場合は、それがスポーツだったんです。

まず外に出るきっかけが大事だと思うんです。それはスポーツでも、音楽でも何でもいい。ただ、本人がスポーツをやりたいと思っても、実際にはその練習現場に行くことが難しいこともあります。だから、誰かが「一緒に行こうよ」って言ってくれると、行動につながっていくんじゃないでしょうか。

スポーツを始めたことで、いろいろな人と出会いました。スポーツの場では、「障害者/健常者」ではなく、人と人として対等の立場で付き合うことができる。それが自信にもつながります。健常者に対して、いつも「お願いします」とか「手伝ってください」というスタンスでいると、どうしても自信が持ちにくいところがある。そうではなく、誰とでも対等に混ざり合えるのが、スポーツのいいところ。

もともとスポーツは得意ではなかったのですが、いまはマラソンやサッカー、それからボクシングもやっていて、どれもすごく楽しいです。チャンスがあるなら、どんなスポーツでも挑戦していきたいです!(笑)

 

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2020年2月27日公開