連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

走ることで「地に足のついた」自信を得られた ブラインド×マラソン (2)

アキレスインターナショナルジャパン 代表 重田雅敏さん

伴走者とのコラボレーション

「伴走者」について、もう少し教えてください。

視覚障害ランナーの場合、伴走者がそばについて、ロープを輪っか状にしたものをお互いに握って一緒に走ります。それぞれの手の振りが合わないと走りづらいので、そのためにまず足の動きを合わせなくてはいけません。二人三脚の要領ですね。ロープは、伴走者に引っ張ってもらうために持っているわけじゃなくて、方向指示のため。だから、そっと張っているくらいがちょうどいい。ぐいぐい引っ張られると、逆に疲れてしまいます。

伴走者の役割で一番大事なのは、安全確保です。坂、カーブ、段差などの少し手前で、伴走者は「約5メートル先、右に90度のカーブがあります」という風にランナーに伝えます。でも、「坂があります」と言われて上りだと思っていたら、実は下りだったっていうことも結構あるんですよね。伴走者が右と左を言い間違えることは日常茶飯事です。

ある程度はランナーも「いまどのあたりを走っているだろう」とイメージして、先の見通しをもっていないといけない。段差があるなら足をちょっと高めに上げるとか、そういうコラボレーションが必要で、全部伴走者におまかせで走るわけにはいきません。

伴走者の条件やコツはあるのでしょうか?

まずは安全確保です。視覚障害ランナーは誰でも一度は何かにぶつかったり、つまずいたりした経験があると思います。それは、ある程度は仕方がないこと。私も花壇につっこんだことがあります(笑)。でも、スピードが出て来ると一歩間違えれば大けがにつながる。人にぶつかったら大変です。だからこそ、伴走者は先を見通して、周りの動きに目を配ることが大事です。

アキレスの定期練習会では、初めての人にはベテランの視覚障害ランナーがついて伴走の仕方を教えるようにしています。ベテランなら余裕がありますし、伴走の難しさや落とし穴も経験していますから。アキレスのホームページにも「伴走方法」の説明を載せていますが、実際に走ってみないとわからないことが多いです。まずは安全確保の仕方やコースの伝え方に慣れてから、段々とスピードを上げるにはどうしたらいいかとか、障害者に楽に走ってもらうにはどうしたらいいのかといったコツを伝えています。

記録を狙って走る場合であれば、視覚障害ランナーと伴走者は身長や走力が同じくらいが理想的です。基本的に、フルマラソンを4時間で走るランナーの場合には、3時間半で走れる伴走者が必要です。ランナーのペースにあわせて走るので、少し余裕がないと伴走者がアップアップになってしまう。本当に大会で記録を出そうと思ったら、自分に合った伴走者選びから始まります。

ただ、定期練習会には、運動不足解消のために軽く走りたい、伴走者と話しながらゆっくり歩きたいという視覚障害者のほうが多いので、その場合は伴走者に走力がなくても大丈夫です。いまアキレスには大学生や外国人のボランティアが来てくれていますが、どこのランニングクラブでもランナーに対して伴走者の数が全然足りていません。一人でも多くの方に参加してほしいと思っています。

「もう走らない」と決めたはずが・・・

これまで参加されたなかで、最も印象に残っているマラソン大会は何でしょうか?

うーん・・・いっぱいあるので難しいですが、北海道の「サロマ湖100kmウルトラマラソン」でしょうか。ウルトラマラソンを走るようになって3回目くらいだったと思います。

最初は「宮古島ワイドー100kmマラソン」に出て、記録は12時間50分くらいでした。次が「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」で12時間40分くらい。どちらも大会の制限時間は14時間です。だから、13時間弱くらいのペースなら100キロもなんとか走れるかな、という感じでした。ところが、サロマ湖の大会は制限時間が13時間と短い。制限時間以内にゴールできないかもしれないという心配もありました。

そのとき、私をサロマ湖の大会に誘ってくれた伴走者は、100キロのウルトラマラソンを8時間台で走ったという宇宙人のようなランナーだったんです。いま思うと、その人選が間違いでしたね(笑)。普通は、20、30キロくらい走ったら腰を下ろして少し休むんですよ。そして、ハーフポイントに着いたら食事をとって、30分くらい休んで後半戦に備えます。でも、その伴走者は全然休まない。エネルギー切れにならないように、おにぎりやアンパンなどの食べ物は運んできてくれるのですが、食べながら走り続けるんです。

ショックだったのは、さすがにハーフポイントでは絶対休むだろうと思っていたのに、「記録を狙う人は、普通こんなところで休みませんよ」って言われたこと。そのあとの10キロが本当につらかった……(笑)。でも、おかげさまで、自己ベストの10時間25分で走ることができました。ゴールに着いたら全身がつって大変でしたけど。

苦しい思いをされて、走るのが嫌になりませんでしたか?

その伴走者に聞いたのですが、ランナーの間で有名な川柳があるんですよ。「もうやめた、誓ったはずがスタートライン」。走っているときは毎回、二度とマラソンなんかするもんかって思います。そのときも、少なくともウルトラマラソンには出ないと心の中で誓いました。でも、大会が終わって、温泉につかるうちに「また来年も出ようかな」って考えている(笑)。あれは何なのでしょうかね。大会に出ないと、自分に負けたような気がするのかもしれません。ウルトラを走るのは、自分との闘いみたいなものですから。

 

2020年2月27日公開