連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

走ることで「地に足のついた」自信を得られた ブラインド×マラソン (3)

アキレスインターナショナルジャパン 代表 重田雅敏さん

マラソンを始めたことで得られたもの

アキレスでは、視覚障害者だけではなく、さまざまな障害を持つ人たちが参加できると聞きました。

そうです。それはニューヨーク本部の理念でもあります。最近は、知的障害者のメンバーが増えています。ただ、サポートの仕方は視覚障害者とは全然違うので、安全確保の難しさもあります。もっと対応できる伴走者を増やさないといけません。

いろいろな人が参加することの良さもありますよ。視覚障害があると人付き合いが少なくなることもあって、考えが自分中心になりがちです。でも、アキレスに来るといろいろな障害の人がいて、さらに外国人ボランティアも参加しています。そういう意味では、広い世界のなかで自分自身の位置づけみたいなものが客観的にできるようになる。自分と世代も背景も違う人たちと話すのは楽しいし、大会に出るためにみんなで旅行することもあります。

アキレスは、海外の大会に出やすいのも特徴なんです。「ニューヨークシティマラソン」にも本部が障害者枠を確保してくれているので、毎年十数人が日本から参加しています。アキレスの伴走者の半数くらいは英語が堪能ではないかと思えるほどです。私もこれまでにアメリカのニューヨーク、ボストン、カルフォルニア、英国スコットランドのネス湖、それから台湾、香港、ハワイのマウイ島などの大会に参加しました。

スコットランドを走る「ネス湖 マラソン」にて(写真提供:重田さん)

50歳から走り始めて、ご自身の気持ちの上での変化などはあったでしょうか?

ありましたね。自信がついた部分もあるし、謙虚になった部分もあります。マラソンをしていると話すと、「障害があるのにすごい」とか「人より苦労が多いのに努力していますね」とか、みなさんほめてくれるんです。それが本心なのか、おだててくれているのか分からない。でも、実際に伴走者の方々と走ってみると、上には上がいることが分かります。私も努力していますけど、見えている人だって、やっぱり努力しているんです。誰でもそれぞれが自分に出来る範囲で、精一杯やっているだけなのだと気づきました。

現実は厳しいものだし、そんなに甘いものではありません。たとえば1キロ5分で走っている人が、1キロ4分30秒で走ろうと思ったら、それなりの努力や運や環境が必要です。それら全部を含めて現実ですよね。結果を残すためには、その現実をしっかり知ることが大事です。でも、そういう厳しい現実のなかで、自分がフルマラソンとかウルトラマラソンを走ることができたというのは信じていいプライドだし、努力だとも思うんです。そういう地に足がついた自信をもてるようになりました。

パラリンピックを機にした変化

現在は、どのように走ることを楽しんでいますか?

いまは、記録ではなく楽しみのために走っています。アキレスの代表として一般会員が走れる環境をつくるのが私の仕事ですから、定期練習会で伴走者が足りなければ走らずに待つこともあります。これまでに100キロウルトラマラソンは20回ほど走ったし、フルマラソンも3時間半を切る記録で何回か走ってきたので、もう苦しい思いをするのはいいかな。この1、2年は、海外を旅行しながら楽しくマラソン大会に出ようという気持ちで走っています。

ただ、世の中はうまくいかないんですよね。最初のうちは100キロに比べたら余裕だと思ってフルマラソンを走っていましたが、前みたいに練習していないから走力が落ちるのが早い。海外旅行は楽しいのですが、あっという間にフルマラソンがつらくなりました。それでハーフマラソンにしたら、最近はハーフもつらくなってきています(笑)。

今年は、東京でオリンピック・パラリンピック大会が開催されますが、そのことで何か変化は感じていますか?

パラリンピックがあることで、以前よりブラインドマラソンも注目されるようになりました。普段、障害者の存在を身近に感じる機会がないと、「下手に声をかけたら相手を傷つけるのではないか」、「手伝おうとして断られたらいやだな」と考えて躊躇してしまうと思うんです。でも、障害のある選手を応援したり、ブラインドマラソンの伴走に参加したり、ボランティアをしたりする機会が増えていけば、「なんだか障害者は大変そうだな」というところから、もう一つ理解が深まり、次のステップへ進むかもしれません。パラリンピックは、そのきっかけになるのではないでしょうか。

 

2020年2月27日公開