連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

ロープと信頼で結ばれた伴走は、楽しさも2倍 ブラインド×マラソン【伴走編】 (1)

上級障がい者スポーツ指導員、公益社団法人日本タートル協会理事、NPO法人べアリスランニングクラブ理事 進藤充さん

 前回の記事でも紹介したように、単独で走ることができる弱視の場合をのぞき、視覚障害者がランニングやマラソンをするときに一緒に走るのが「伴走者」と呼ばれるサポーターだ。輪にしたロープをお互いに持ち、二人三脚の要領で手と内側の脚の振りを合わせて走る。伴走者は、コースの方向や変化、進路にある障害物などを伝える役割を担っている。

 障害の有無に関係なく参加できるランニングクラブやマラソン大会が全国にある一方で、視覚障害者ランナーの人数に対して伴走者の数は足りていないのが実情だという。今回は、上級障がい者スポーツ指導員の資格をもって伴走講習会の講師も務め、ご自身もさまざまな視覚障害者ランナーと一緒に走ることを楽しんでいるという進藤充さんに、伴走の魅力や奥深さを教えてもらった。

引き込まれていった「伴走」の世界

進藤さんは、どうして視覚障害者の伴走をされるようになったのですか?

 私は埼玉県熊谷市に住んでいるのですが、そこに立正大学のキャンパスがあるんです。もう10年以上前になると思いますが、当時、社会福祉学部の教授だった山西哲郎先生と出会ったことがきっかけでした。山西先生は箱根駅伝にも出場した経験があり、市民ランナーの指導や福祉にも関心をもって活動されています。

 私も前から自己流でランニングはしていたのですが、ある機会に先生と知り合い、お酒とつまみの趣味が同じだったので(笑)、よく呼ばれて一緒に飲んでいたんです。先生は、真夏の熊谷でも熱燗を頼むんですよ。飲みながら障害者スポーツの話を何度も聞くうちに、まあ洗脳されちゃったんですね。群馬県にあるランニングクラブがやっている伴走の練習会に行くようになりました。そのうち、調べてみたら東京にもあることがわかって、代々木公園で活動している日本ブラインドマラソン協会に入っていろいろ教わったんです。

 そこの練習会に来ている視覚障害者の人たちと仲良くなると、今度は「他にもランニングクラブがあるよ」と教えてくれて、「明日はそっちで走るから来てみなよ」と声を掛けられるようになりました。視覚障害者ランナーの人は、複数のランニングクラブに入っていることが多いんですよ。そうやって、だんだん伴走の世界に引き込まれていきましたね。

盲ろう者のランナーと金沢マラソンに参加。(写真提供:進藤さん)

伴走のどういうところに魅力を感じますか?

 一人じゃないので、会話をしながら走るんですよ。「今日終わったらどうする?」「焼き鳥が食いたいなあ」「昼間から焼き鳥屋はやってないよ」「じゃあ、ラーメンだな」とか。普段は、そういう話ばかりしながら楽しく走っています。伴走に慣れてしまうと、もう一人で走るのがつまらない気がしてきますね。

 やりがいを感じることも多いです。あるランナーから「いつもは近所の人に伴走してもらっていてタイムが1時間15分から20分なんだけど、一回でいいから1時間を切ってみたい。進藤さん、手伝ってよ」と頼まれたことがありました。それで、「よし、わかった」と、大会ではスピードを上げて何人もごぼう抜きしていったんです。結果は、58分ちょっと。走った本人も「やっぱり俺にはこれくらいの実力があったんだ」と、記録をすごく喜んでいました。

 もちろんスピードを上げて記録を狙う人ばかりではないので、「今度の大会はタイムをねらいますか? 話しながら楽しく走りますか?」と本人の希望をまず聞いて、それに合わせて伴走しています。やっぱり楽しくないと続けられないですからね。

視覚障害者から聞いた「本音」を伝えたい

伴走者によってタイムが変わることもあるのですね。

 転んだり、ケガをさせたりしたら困るという気持ちから、伴走者は無難に走ろうとしてしまうことが多いんですよ。安全を優先するあまり「いま混んでいるからゆっくり走ろう」とか「ちょっと止まって歩こう」となってしまう。そうなると、本当はもっと早く走ることができるランナーでもタイムが出せない。最初は私もそうしていたんです。

 でも、一緒にご飯を食べたり、お酒を飲んだりするうちに、視覚障害者の人たちから段々本音を聞けるようになりました。そのなかには、「本当はもっと早く走りたいんだよね」という人もいた。それで、安全を確保しながらですけど、私が伴走するときには「このあとスピードを上げて、右から前のランナーを抜くよ」と声をかけて加速していくこともあります。ゴールした後は、「きつかったけど良かったなあ」とランナーも嬉しそうです。

 我々だって、そうじゃないですか。実力を十分発揮できなかったら物足りないですよね。視覚障害者ランナーは、見えないだけで身体は丈夫だし、ずっと練習を重ねてきている。だから、100%に近い力を出したいんです。でも、伴走者に対して要望や不満があっても、なかなか視覚障害者は口にしづらいのだと言います。それは伴走者の数が足りないから。もしも一緒に走ってもらえなくなったら困るじゃないですか。だから、私がみんなから聞いたことを、伴走講習会などを通じて代わりにどんどん伝えていきたいと思っているんです。

伴走講習会の様子(写真提供:進藤さん)

 

2020年4月17日公開