連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

ロープと信頼で結ばれた伴走は、楽しさも2倍 ブラインド×マラソン【伴走編】 (2)

2人で安全に楽しく走るために

伴走講習会について教えていただけますか?

 「日本タートル協会」という高齢者を中心に健康増進を目的としたマラソン大会を行う団体があって理事をしているのですが、そこで独自に伴走講習会をやっています。もう一つ、立正大学の熊谷キャンパスを拠点に活動するNPO法人べアリスランニングクラブの理事もしているのですが、そこでも講習会を開催しているほか、他県のランニングクラブから招かれて講師をすることもあります。

 サポートといっても、一人ひとりの障害によってやり方が違います。視覚障害だけの人もいれば、視覚と聴覚に障害がある人もいます。事前にどういう障害があって、どんなサポートの仕方がいいのかは、正直に本人に聞いています。そうじゃないと間違ったサポートをしてしまうこともあるからです。

 私がつくった「伴走入門」という講習会の資料は、文字をすごく大きくしてあるんです。それは、弱視の方で伴走をしたいという方もいるからです。前に小さい字で資料を印刷したら「読めないよ!」と言われて作り直しました(笑)。私がやっているのは、パラリンピックに出たいとか、高い競技性を目指す人のための伴走講習ではありません。一般市民の人にルールとマナーを知ってもらって、安全に楽しく伴走できるためのものです。

この資料には、具体的な方法だけでなく、「望まないことを押し付けない」「初めて一緒に走るランナーの不安をなくすために、事前に脚合わせをしておく」など、心構えも書いてありますね。

 資料の最初に書いていますが、障害者ランナーの方から「伴走してもらうのはありがたいが脚が合わない、腕振りが合わないことがある」、「タイムを狙っているわけではないのに、1分を惜しんで給水にも寄れなかった」などの本音を聞くようになったので、それを伴走者にも知っていただき、2人で楽しく走ってほしいと思って講習会をやっているんです。

日本タートル協会では、年1回「タートルマラソン国際大会 兼 バリアフリーマラソン大会」を開催していますね。この大会にも視覚障害者ランナーの方が多数参加されています。

 残念ながら去年は台風の影響で開催できなかったのですが、毎年8000人が参加する大会です。そのうちの約500人が視覚障害者、知的障害者、車椅子ユーザーといった障害者ランナーです。

 私は実行委員長だったので、何か新しいことをやりたいと思って、今年からアイメイト協会へのチャリティランも始めました。もともとランニング仲間にアイメイト使用者の方がいて、もう十年以上のお付き合いなんです。彼女からアイメイト協会の募金のことを聞いて、「それじゃ、何かやろうよ」と、参加費プラスひと口500円の寄付を募ったら、けっこうな金額が集まりました。ほかにも、自分が酒飲みなので、大会で走り終わった後にちょっと飲んだり食べたりできたらいいなと思って、屋台やキッチンカーを集めたフードコートを設置して「ランナーめしグルメフェス」も始めました。

 私の仕事は建築業なので、マニュアルが通じないんですよ。壁をはがしたら、「あれっ、こんなパイプは図面には載ってなかったよ」ということがよくある。思わぬところからガスパイプがでてきたり、変なものが出てきたりするから、頭が柔らかくないといけない。だから、「いつも通り」にやるのはあまり好きじゃなくて、何か新しいことがしたくなるんです(笑)。

マラソンというとストイックなイメージがあったのですが、とても楽しそうですね。

 楽しいですよ。別に駅伝を目指しているわけではないですから、健康のために走るのなら楽しいほうがいい。視覚障害者の人が走ることを継続できるように楽しく伴走するのも大事だし、伴走者自身もボランティアでやっているわけですから、一緒になって楽しく走らなくちゃ続かないと思います。

春日部大凧マラソンにはコスプレで参加!(写真提供:進藤さん)

「気を遣われるより、普通に扱ってほしい」

普段、視覚障害者と接点がない人も多いと思うのですが、伴走を通じて視覚障害者と接するなかで、進藤さんが最初に思っていたイメージと変わった部分はありますか?

 その質問、よく聞いてくれました! 伴走に参加し始めた頃の、印象的な出来事があります。

 あるとき視覚障害者のマラソンクラブで青空忘年会があったんですね。同年代のハマちゃんという視覚障害者の人と芝生の上でビールを飲んでいたら、「何かいい匂いがしない?」って言うんです。それで、「あっちで肉を焼いているんだよ」と説明したら、ハマちゃんが急に立ち上がって「目の見えない僕に肉を持ってきてください。肉が食べたいです!」と大きな声で叫んだんです。そうしたら、遠くから「ハマちゃん、脚があるんだから匂いのほうに歩いておいでよ。まだ肉はたくさんあるよ」って別の視覚障害者の人が叫び返しました。その会話を聞いていた周りの人たちも大笑いしていたんです。びっくりしましたよね。

 最初の頃、私は視覚障害者の人に色の話とか見えないことを言うのは失礼だし、タブーだと思っていたんです。でも、その考えは間違っていたんだなと気づきました。逆に「おれたちはそういう気遣いはイヤなんだよ。普通に扱ってほしい」と言ってもらったからです。ただ、そうやって本音を教えてくれる関係になるまでには、ものすごい時間がかかりましたよ。誰でも同じですが、一緒にご飯を食べたり、自宅に遊びに行ったり、一緒に大会に出たりして、気心が知れてから「いや、実はさ…」って言えるようになるんですよね。

サポートには「対等な関係」が大切

ランナーの方たちとの信頼関係を大事にしていることが伝わってきます。

 信頼関係は大事です。たまに、「俺が伴走してやっている」というような目線でモノを言う人がいるんですが、それは違うと思っています。私がよく言うのは、視覚障害者も伴走者も一心同体だということ。どちらも生身の人間だから、大会前にどちらが体調をくずしてリタイヤすることもあるかもしれない。でも、それもお互いさまで、恨みっこなし。

 本音を言えるような関係がないと、本当のサポートにはなりません。そこがいちばん重要なところ。だから伴走講習会では、何でも言える対等な立場でやらないとダメなんだと伝えています。命を預ける伴走ロープを握り合うのですから、ランナーと伴走者がお互いに信頼し合えないといけない。信頼で結ばれてこそ、走る楽しさも倍になります。

熊谷さくらマラソン大会にて。右が進藤さん(写真提供:進藤さん)

2020年4月17日公開