連載 ブラインド×スポーツ スポーツに取り組む視覚障害者

仲間と一緒に、それぞれの「見えない壁」に向き合う ブラインド×クライミング (2)

NPO法人モンキーマジック代表 フリークライマー 小林幸一郎さん

聴覚障害のある人や、車いすの人も参加

最初は、任意団体として活動を始めたそうですね。

はじめは、クリニックの先生などから興味のありそうな人を紹介してもらいました。ずっとスポーツをやっていたけど網膜剥離になって、もう一度何かに打ち込みたいと思っていた人とか、新しいつながりが欲しいという人とか、何かを求めている人たちはたくさんいて、その人たちがクライミングに参加してくれました。やっていくなかで、これは自分が一生かけてやっていくものだと感じるようになって、2005年にNPO法人モンキーマジックを設立したんです。

視覚障害者向けのクライミング教室からスタートした活動でしたが、そのうちに教室に通う人たちから「教室以外でも、もっとクライミングを楽しみたい」という声があがるようになりました。それで、障害の有無に関係なく「クライミング仲間」が集まって一緒に楽しめる場をつくろうと、2012年から始めたのが「交流型クライミングイベント」のマンデーマジックです。

月1回月曜日に開催される「マンデーマジック」の様子

モンキーマジックが主宰する「交流型クライミングイベント」は、東京、神奈川、茨城の3カ所で開催しているのですが、ほかにも有志の方たちが「自分たちの地域でもやりたい」と言ってくれて、いまでは全国(※)に活動が広がっています。

※北海道(札幌、函館)、富山、山梨(甲府)、愛知(名古屋)、大阪、島根(松江)、岡山、広島、徳島、高知、熊本で開催。詳細はこちら

視覚障害以外の障害がある方も参加されているのですか?

いまでは、視覚障害、聴覚障害、手足の欠損や麻痺がある人、車椅子ユーザー、発達障害の人などが参加してくれていて、年齢も小学生から70代までさまざまです。東京と神奈川でいえば、障害のある人は参加者の3分の1くらい。障害のある人への理解を深めるきっかけになったとか、新しい友達やつながりができたといった感想をもらいます。

もともとは自分と同じ視覚障害者に向けて活動を始めたのですが、2011年にイタリアで開催されたパラクライミング世界選手権に初めて出場した時に、同じ日本代表で金メダリストとなった当時58歳の片足のクライマーがいらしたんです。ほかにも大会を通じて、いろいろな障害のあるクライマーと出会う機会がありました。そうした出会いもあり、クライミングはいろいろな人が楽しめるものなんだ、と思っていた頃に、マンデーマジックに聴覚障害の方も参加してくれるようになりました。

障害が異なると、教え方なども変わってきそうですが・・・。

最初は、障害のある人を対象に活動するなら専門家が必要じゃないかとか、専門知識や技術が必要なんじゃないかと思っていました。でも、実際にやってみると、当たり前だけどみんな同じ人間だし、一人ひとりによってできることが違う。

専門家がいなくても、どうしたら相手に伝えられるのかってことを考えて工夫していくことが大事だし、そうやって工夫していけば大丈夫だと気づくことができました。そこから、いろいろな人が参加してくれる場になっていきました。

マンデーマジックにはさまざまな人が参加する

それぞれに「できること」と「できないこと」がある

視覚障害のある人が、クライミングをする際の工夫はありますか?

視覚障害がある人が登るときには「ナビゲーター」といって、使っていいと指定されているホールドの位置を教える仲間がつきます。人工壁を登るときに、壁面にさまざまな形、大きさ、色のホールドがついているのですが、レベル分けされたコースによって使っていいホールドが指定されているんです。たとえば、このコースだったら青のホールドだけ使って他の色のホールドは使わないとか、バッテンのテープを貼ったホールドだけ使う、といったルールがあります。

見えない人にはそれが分からないので、指定されたホールドがどれなのかをナビゲーターが声をかけて教えることで補います。でも、「そこを右手で持って!」などの登り方までは指示しません。それをやってしまうと、クライマーはナビゲーターの操り人形になってしまう。あくまで登るのはクライマーで、ナビゲーターはクライマーの目が見えないことで出来ない部分だけを補う役割なのです。

クライミングって、障害があってもなくても、誰でも同じ場所で同じルールで楽しめるスポーツなんです。健常者と障害者が「助ける・助けられる」の関係ではなく、同じクライミング仲間としてかかわることができる。マンデーマジックでは、視覚障害のある人のナビゲーターを、別の障害のある人がすることもあります。

みんな、それぞれにできることがちょっとずつあって、できにくいこともちょっとずつあるんですよね。私は身長が157㎝しかないから、背の高い人なら届くホールドに届かないことがあります。力のある人もいれば、ない人もいます。そうやって考えてみると、何がいったい「障害」なのかなって思いませんか?

ナビゲーターの様子はこちらの動画から。「パラクライミング体験講習会@函館HOMIE」

 

2020年6月18日公開